[8]嘘か本当か立証できない

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 チャールズは冷静だった。湯気のたつ香りの良いコーヒーを運ばせて、感情の揺らぎのない瞳で眼下を睥睨する。 「現代のシステムが機能不全になるというのは、誰にとっても未知の領域だ。我々はもう、誰もが気軽に医療へアクセスすることができないし、食料の確保すら危うくなる。それに圧倒的なエネルギー不足。なにしろ、自給自足とは遠い生活をしているからね。都心なんてもう、住めるものじゃなくなるんだ」 「つまり、いまのパニック状態は、すぐには収まらないってことか」 「そうだね。スーパーフレアそのものは、そんなに長くは続かないだろう。けれど、何百とある人工衛星が全部ダメになってしまえば、復旧にどれだけ時間がかかると思う? 地球規模の災害なんだ。すぐには回復しないだろう。我々が元の生活に戻るには、何年も、いや下手をすれば、何十年もかかってしまう。いままで築きあげてきた秩序や社会システムやインフラのすべてが、ひっくり返ってしまう。世界恐慌だよ」  目に見えない大災害の、あまりの影響力に気が遠くなる。  俺はグラグラする意識を必死でつなぎとめながら、チャールズの話に耳を傾けていた。 「文明の終焉に匹敵するほどの、困難が待ち受けているというわけだよ。今日のパニックはまだ、ほんの始まりに過ぎない。人類はここから、これまで遭遇したことのないフェーズに直面するんだ」  話が大きすぎて、とても実感がわかない。チャールズの話すべてが壮大なホラなんじゃないかと言いたくなるが、窓の外を見れば、そんな単純な話ではないことを思い知る。 「スーパーフレアによる大災害と、俺たちを監禁する話の、一体どこが繋がるっていうんだよ」  俺たちは、少しだけ人より強い影響があるだけの、ただのDomであり、Subというだけだ。ダイナミクスをもたない大半のNormal相手には、そんなものは関係がないだろう。  外がパニック状態だからこそ、有効なのは物理的な力だ。警察力、軍事力、そうした純粋で圧倒的なパワーだけが秩序を作るんじゃないのか? 「まあ、しばらくは様子見だよ。変電所の変圧器そのものがダメになっているから、復旧は相当時間がかかる。なんにせよ、この事態は終わらないんだ、まだまだね」 「それまで、俺らを保護してくれるんだ、ありがたい話だ」 「感謝してくれるのかい?」  チャールズは片眉をあげて、唇の端に笑みを浮かべた。とても、親しみを持てない表情だったが。 「私が勝手に売りつけた恩は、しかるべき時に返済してくれれば、それでいい。どちらにしろ、当面は日本に帰れないよ。飛行機なんて、いつまで経っても飛ばないからね。海の向こうがどうなっているかは、私にもわからない」  これだけの状況を前にして、チャールズは冷静だった。彼の自信はどこからくるものだろう。  彼の目には、俺らには見えていない、なにが見えているんだろう。
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