[9]マイノリティとはもはや言えない

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 鉄パイプらしいものを振りかざす一団が、略奪を目的としているのは明らかだった。  俺たちのいる部屋からは凹凸の加減で、入口エントランスに集まる十数人の不法者たちの姿が、しっかりと見える。下から俺らの姿が見えるのかはわからないが。 「やっぱり、狙われてるんだ。ここなら、金目の物や食料があるはずだって」 「出入り口は封鎖してるだろ」 「でも、一階の窓ガラスは、そんなに頑丈じゃないんじゃないの? あんな尖ったもので突かれたらもたないよ、きっと」  仮に、あいつらに一階まで侵入されたところで、俺たちのいる二十五階まではすぐには来られない。エレベーターはマスターキーがないと動かないし、廊下だって非常口への道がぼんやり照らされている程度だ。全館が省エネモードに切り替わっている。 「けどさ、この部屋じゃ、鍵をかけるくらいしかできないぞ。武器になりそうなものだってないし」 「そうだね。チャールズはどうしてるんだろう」  俺たちが固唾を呑んで見守る中、鉄パイプを手にした一団の中へ、新手の集団が現れた。 「あれは、なんだ?」  迷彩服ではないが、ヘルメットを被ってカーキ色の揃いの制服に身を包んだ十名くらいの男たちだった。 「軍人ではなさそうだし、警備員の人じゃないかな」 「そんなの、いま機能してるのか?」  大きな得物をこれみよがしに振り回す一団を制止するように、半分くらいの警備員たちが立ちはだかる。彼らが手にしているのは、少し大ぶりの警棒だった。 「あんなのじゃ、相手にならないだろ」 「いや、あの棒が案外、ライトセーバーだったりして」 「まさか」  俺と碧は、一つのオペラグラスを交換しつつ、正面エントランスで起こっている騒動の成り行きを見守っていた。 「ぶつかる!」  碧にオペラグラスを渡してしばらくしたところで、諍いは動き出した。 「うそ、なんで……」 「おい、どういうことだよ」  血気盛んなギャングもどきが前へ踏み出したところで、それ以上は動かなかった。 「碧、貸して!」  ひったくるようにオペラグラスを借り受けて、ギャングと警備員たちの様子に目を凝らす。 「奴ら、誰も手が出せないみたいだぞ」 「やっぱり、ライトセーバーなんじゃない?」 「電気ショックでビリビリする棒なのか?」 「ああ、ありえるかも」  小競り合いにすら発展することなく、ギャングたちは散り散りになって路地の奥へと消えていった。 「なんだったんだ、あいつら」 「まだ働いている警備の人が、いたなんて驚きだね」 「俺ちょっと、出てみる」 「え、待って!」  なんにしろ、この階からでは遠くは見渡せない。一室を宛てがわれている俺たちだが、部屋から一歩も出るなと言われているわけではない。ただ、侵入禁止の部屋を開くマスターキーを持たされていないだけだ。  廊下は薄暗く、壁を手探りしながら、非常階段へ向かう。 「僕も行くよ」  後をついてきた碧と一緒に、ほぼ暗闇になっている階段を降りる。三階下まで降りたところで、扉を開けてフロアへと出た。  そこは、俺たちがいた二十五階と同じ作りだったが、かすかな違和感を覚えて、ふと足を止めていた。 「碧、俺から離れるなよ。この階で、誰かがCommandを使ってる」
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