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「かなり強いGlareにしか反応しないんだよ、碧は」
「……」
「大丈夫? 少しやりすぎたかも。気分悪い?」
「いや、違うんだ。そうじゃなくて」
「トイレならそっち」
「え、あ、ああ。違う、けど」
頬を上気させた碧が半開きを口から長い息を吐き出す。いや、エロいだろ、それは。
他の客はいないし、こういう店だから店員は見て見ぬふりしてくれるけど。
「これ、これが欲しかった」
「え?」
「どこにもなくて、緋聖くんの、これが欲しくて」
「いや。待て待て待て。落ち着け、おい」
無防備なトロ顔をさらすな。おまえ、それ完全にダメなヤツだから。アウト。公然猥褻罪モノ。わかってるか?
「ちょっと、水でも飲め。深呼吸しろって」
「う、ううん」
とりあえず落ち着かせないと。碧はすっかり目が据わってる。別人みたい。いや、こっちが本性なのか? 体調を崩すくらいプレイに飢えたSubの顔。
「お願い、もっとほしい」
「おい」
「緋聖くんじゃないと、ダメなんだ」
真顔で迫られて、思わず後ずさりそうになる。いや、こんな狭い店内じゃ無理なんだけど。
「おまえ、意味わかって言ってるよな?」
「……うん」
「いいんだな、本当に」
「おねがい。ぼく、もう」
ああもう、完全にSubじゃん、おまえ。Domを必要としてるSubを前にして、俺が断れるわけないじゃん。理屈じゃないんだよ。だって生理現象なんだから。
しかも、俺のGlareじゃなきゃ駄目まで言われて、そこで断る奴はDomじゃない。
いままで碧を避けてきたけど、もう無理。ここまできたら、腹をくくるしかない。
「じゃあ、今夜は俺につきあう?」
カウンターに腕を組んで、頬杖をつく。至近距離から上目遣いで碧を見つめる。すでに潤んだ目がゆっくりと瞬きする。
合意なんてさ。ご大層なもんじゃないんだよ。契約なんかじゃない。
空気? 雰囲気? 視線が絡んだら、もうそこで決まりだろ。
俺は碧が欲しい。だから、碧も俺が欲しい。もうどうしようもなく、パズルの凹凸みたいに、磁石の両極みたいに惹かれるものなんて、止めようがない。
「じゃ、いこうか」
繁華街でも特にこの界隈は、ダイナミクス関連の施設が点在している。俺にとっては馴染の店ばかりだった。
「あ、あの、緋聖くん。えっと、どこへ?」
「イイところ。そうだ。おまえからの質問は一切禁止な。碧は俺からの質問にだけ答えればいい。わかった?」
「う、うん」
有無を言わさぬ勢いで押し切ると、碧は脊髄反射みたいに頷いた。
俺は足早に通りを横切ると、個人経営のプレイルームへと碧を引っ張っていった。
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