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【6】プレイだけじゃ物足りない
基本的に俺は、自分の部屋ではプレイに持ち込まないようにしてる。
社長のところみたいに相手の部屋か、でなければ安価なプレイルームを選ぶ。Domとしての俺を必要としているSubが多いから、負担も向こう持ち。とはいえ、Subは優柔不断で決められないという一面があるので、指示をするのは俺の方。
ただし、今回の碧みたいに、なにもかも初めての場合は俺が手取り足取り全部、教えてやらなければならない。こういう手間をかけさせられるのは嫌いじゃないってのが、Domのサガでもある。
「今夜は最初だから、まずはセーフワードを決めなきゃいけない。セーフワードは知ってるな?」
「うん」
「なにがいいかな。碧は嫌いなものとか、なにかあるか。なんでもいい。そうだな。苦手な食べ物は?」
「苦手……激辛とか無理だけど、ああ、ゴーヤと、あとパクチーが食べられない」
「それにするか。セーフワードは『パクチー』だ。一度、言ってみろ」
「パクチー」
「そう。セーフワードは、どんな時に使うもの?」
「苦しくて、限界で耐えられない時に言う」
「そうだ。必要な時は、言えるな?」
「うん」
「Good」
碧の顔がほころぶ。目に見えて、喜びを噛みしめているのがわかる。そんなSubを前にすれば、俺のほうも満たされる。このSubに喜びを与えているのは自分。紛れもなく、Domである自分の力だ。
Subに対して、Domには力がある。使い方を間違えれば、無闇にSubを傷つけてしまったり、取り返しのつかないことになる大きな影響力がある。けど、これがないとSubを支配下に置くことはできない。
「それと、次の質問にはイエスかノーで答えて。碧は、いままで誰かと付き合ったことがある? 彼女がいたことある?」
「イエス」
「いまは、彼女いない?」
「イエス」
「オッケー。じゃあ、始めようか」
俺がGlareを強めると、碧は大きく肩を揺らして面白いくらい反応した。俺が選んだプレイルームは、ごく標準的でシンプルなタイプ。特別な設備もないし、広さも普通。プレイに使う道具はロッカーに入っていて、中身についてもよく知ってる。
「碧。このまま、俺とプレイを続けたい?」
「イエス」
「わかった。まずはドアまで行って、部屋の鍵をかけて」
俺が命じると、途端に碧は弾かれたように動いて内鍵をかけた。部屋をロックしたのは碧、Subの意思で始まることが大事。
「よし。次は眼鏡を外して、テーブルの上に置いて」
碧は言われるがままに眼鏡を外す。視力はたいして悪くないのは確認済。裸眼でもプレイに支障はないレベルなのは知ってる。
「Good. そうだな、部屋の中ではコートは要らないよな。俺のコートを脱がせてよ」
また少しGlareを強める。自分の手足だと思って、遠隔で動かすイメージだ。俺の指示するままに、碧は俺からコートを脱がせてハンガーにかけた。
「碧だってコートは要らないだろ。わかるか。Strip」
基本のCommandを告げると、碧は大きく目を見開いた。
ああ、迷っていると思った。どこまで脱げばいいのか、指示の行間を読もうとして躊躇している。この後、碧はどう動くだろう。意地の悪い考えが浮かぶ。でも、そうしたSubの困惑は、Domにとっては好物でしかない。
迷うといい。
自分で判断できないのだと思い知るといい。
だって、Subなんだから。
残酷な考えだけど、己を知らないことには、なにも始まらない。俺はそう思ってる。
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