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昔からアンタは手のかかる子どもだった。
事あるごとに、母親からは愚痴をこぼされてきた。
たぶん、俺は人一倍我が強くて欲張りなんだと思う。欲しいと思う気持ちが止められない。欲しいモノを手に入れるためならば、手段は選ばない。どんな手を使ってでも、手のひらに載せて囲いこんで、好きに弄り倒したい。
ダイナミクスの検査なんてする前から、自分のDom性には気づいていた。大概のDomやSubはそうだと思う。自分の性癖くらい、自分が一番よく把握してるだろ。
「緋聖くんって、すごくユニークで面白いね」
「ありがと。よく言われるけど」
「あはは。僕のまわりにはいないタイプだよ」
「うん。それもよく言われる」
スツールに並んで腰掛け、ライムを添えたモスコミュールに口をつける。アルコールは詳しくないという碧には、ミモザを勧めた。
自分の話をまじえつつ、気にかかっていたことを碧から聞き出す。
病弱な一人息子で、これまで過保護に育てられたこと。就職を機に自立したかったけれど、まだ実家に住んでいること。職場の人間関係に悩んでいること。
「あのさ、碧って、もしかして門限とかあったりする?」
成人男子に聞くことでもない。が、本物の箱入り息子の匂いがしたので恐る恐る尋ねると、一杯目で陽気になった碧は笑いながら応えた。
「あははは。なにそれ面白い」
「いや、親御さんから、すごく大事にされてそうだったから」
「ないよ、そんなの。でも、僕が帰るまで何時でも起きて待ってるんだよね、母親が」
「マジか……」
「さすがに、家出たくてね。緋聖くんはずっと一人暮らし?」
「そう。一応ここから歩いて帰れるけど、古くて狭い」
自分の家なんて、ただのねぐら。寝に帰るだけ。最低限のスペースしかないから、連れこむんだったら相手の部屋かプレイルームのほうが都合がいい。
なんの疑いもなく、俺に向かって「緋聖くん」と呼びかけてくれる碧は、本当にかわいくて、いますぐにでも食べてしまいたいくらいだった。
「いいな。狭くても自分だけのスペースがあるって大事だと思う」
「いや、本当に狭いよ?」
「でも、都心の一人暮らしなんて、なかなかできないよ」
碧と話しながら、ごく微量のGlareを垂らしてみせた。Normalなら気づくこともない程度の、ママゴトみたいなGlare。俺からのGlareを浴びた碧は、ビクッと肩を揺らして小さく身震いした。眼鏡を外してクリーナーでレンズを拭くと、すぐにかけ直した。
Glareには反応する。抵抗する術を知らない。あまりにも無防備すぎる。もっと、碧のことが知りたい。
「よかったら、見に来る?」
下心を悟られないよう、細心の注意を払いながら、俺は見えすいた餌をちらつかせていた。
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