【1】聖夜に奇跡は起こらない

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 昔からアンタは手のかかる子どもだった。  事あるごとに、母親からは愚痴をこぼされてきた。  たぶん、俺は人一倍我が強くて欲張りなんだと思う。欲しいと思う気持ちが止められない。欲しいモノを手に入れるためならば、手段は選ばない。どんな手を使ってでも、手のひらに載せて囲いこんで、好きに弄り倒したい。  ダイナミクスの検査なんてする前から、自分のDom性には気づいていた。大概のDomやSubはそうだと思う。自分の性癖くらい、自分が一番よく把握してるだろ。  「緋聖(ひさと)くんって、すごくユニークで面白いね」 「ありがと。よく言われるけど」 「あはは。僕のまわりにはいないタイプだよ」 「うん。それもよく言われる」  スツールに並んで腰掛け、ライムを添えたモスコミュールに口をつける。アルコールは詳しくないという碧には、ミモザを勧めた。  自分の話をまじえつつ、気にかかっていたことを碧から聞き出す。  病弱な一人息子で、これまで過保護に育てられたこと。就職を機に自立したかったけれど、まだ実家に住んでいること。職場の人間関係に悩んでいること。 「あのさ、碧って、もしかして門限とかあったりする?」  成人男子に聞くことでもない。が、本物の箱入り息子の匂いがしたので恐る恐る尋ねると、一杯目で陽気になった碧は笑いながら応えた。 「あははは。なにそれ面白い」 「いや、親御さんから、すごく大事にされてそうだったから」 「ないよ、そんなの。でも、僕が帰るまで何時でも起きて待ってるんだよね、母親が」 「マジか……」 「さすがに、家出たくてね。緋聖(ひさと)くんはずっと一人暮らし?」 「そう。一応ここから歩いて帰れるけど、古くて狭い」  自分の家なんて、ただのねぐら。寝に帰るだけ。最低限のスペースしかないから、連れこむんだったら相手の部屋かプレイルームのほうが都合がいい。  なんの疑いもなく、俺に向かって「緋聖(ひさと)くん」と呼びかけてくれる(あお)は、本当にかわいくて、いますぐにでも食べてしまいたいくらいだった。 「いいな。狭くても自分だけのスペースがあるって大事だと思う」 「いや、本当に狭いよ?」 「でも、都心の一人暮らしなんて、なかなかできないよ」  碧と話しながら、ごく微量のGlareを垂らしてみせた。Normalなら気づくこともない程度の、ママゴトみたいなGlare。俺からのGlareを浴びた碧は、ビクッと肩を揺らして小さく身震いした。眼鏡を外してクリーナーでレンズを拭くと、すぐにかけ直した。  Glareには反応する。抵抗する術を知らない。あまりにも無防備すぎる。もっと、碧のことが知りたい。 「よかったら、見に来る?」  下心を悟られないよう、細心の注意を払いながら、俺は見えすいた餌をちらつかせていた。
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