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ダイナミクスの欲求は人それぞれだ。
DomもSubも定期的なプレイをするか、抑制剤を服用するかで、己の内側に根づく欲望をコントロールしている。抑制剤の効き目も個人差があり、俺自身はあまり効かないタイプなので、定期的にプレイできる相手は切らさない。
ただし、これも個人差の問題だが、自分でも呆れるほどの飽き性で、一人のSubとClaimを結ぶのは、とても考えられない。いろんなSubと知り合いたいし、いろんな関係を試してみたい。だから、Sub一人一人には深入りしないようにしている。
「僕自身はあんまり意識していなかったんだけど、色々駄目出しされるっていうか、感じ悪いと思われてて」
「お高く止まってる、みたいな?」
「そう、それ。なんか、僕が周りに対して壁作ってるって、そう思われてるらしくて。そんなつもり全然ないのに、他人から言われると、そうなのかなあって」
「上司とか?」
「そう! それって世代の差じゃないのかなって思うんだけど」
俺の隣を歩く碧は、足取りこそしっかりしているものの、舌足らずで饒舌になっていた。この後の展開を考えて、ほとんど飲ませていないのに、すでにほろ酔いらしい。
ComeのCommandを使ったわけではないが、碧は簡単についてきた。よほど鬱憤が溜まっているらしい。普段の自分がしないことをしたい。そう言って拳を突き上げている。幼い駄々っ子のような顔を見せられると、高揚感が止まらなくなる。
こんな日に新雪みたいな子と出逢うなんて、俺は前世でどれだけの徳を積んだのか。
「でも、人から言われたことに従うのが性に合わないとか、そういうんじゃないだろ?」
「うーん、まあ、そうかなあ。でも、なんかこう、誤解されてるなって」
「だよなあ」
話を合わせているだけで、アパートの部屋にたどり着いた。普段は行きずりの子を持ち帰ったりはしないが、碧をそこらのプレイルームに連れこむのも具合が悪い。
「狭いし散らかってるけど、あがって」
「お邪魔します。突然押しかけて、すみません」
「平気平気、誰もいないから。あー、やっぱり冷えてるな」
エアコンを入れたものの、底冷えする部屋はすぐには暖まらない。碧も同じだ。少しずつ温めて、距離を縮めることから始めるのがいいだろう。普段なら、そんなまどろっこしい真似はしないが、この子は俺が迫ればすぐに逃げ出してしまうだろう。
「よかったらさ、軽くツマミとか用意するけど、どう?」
「いや、そんな気使わないで」
「いいって。適当に座って待っててよ」
もう少し碧から話をさせて、それとなくダイナミクスに話を持っていきたい。抑制剤を飲んでるのか、プレイの経験はあるのか。センシティブな話だから、いきなり踏みこむのは良くない。
手間と時間をかけて、俺のGlareに慣らして手懐ける。Subをまるごと可愛がるのは、Domだけの特権だ。
「できたよ。ビールでいい? 発泡酒もあるけどって、え?」
大皿にチーズやナッツを雑に盛ってから、ふと後ろを振り返る。ローテーブルに突っ伏して、穏やかな寝息を立てている碧がいた。
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