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人によって頻度は違うと思うけど、俺は最低でも月二回はプレイの機会が欲しい。
普段は使わない筋肉を使うっていえば、わかりやすいのか。日常では絶対に許されない、強いGlareや厳しいCommandが存分に奮える相手はありがたい。
その日、俺がプレイメイトとして訪れたのは、『社長』と呼んでる男の部屋だった。
俺より一回り年上のベンチャー企業の社長で、誠実そうな見た目のSub。少し体の線が細いけど、プレイ相手としては申し分ない。容赦ない仕打ちを重ねても、怯まずに受け止めてくれる貴重なSubだった。
「最近忙しいの、緋聖くん?」
濃密なプレイを終えてCollarを外してやると、社長は小さく首を傾けた。うっすらと汗ばんでいる体表に深い傷跡が残っていないことを確かめてから、バスローブを渡す。
「いえ、そんなことないけど。あの、俺やりすぎた?」
「ああ、気にしないで。Commandをねだったのは僕のほうだから。ただ、いつもより少し苛ついてるのかなって思って」
「すみません。気をつけます」
「いや、いいよ。お互い、そこは織り込み済みなんだし」
白いローブに腕を通した社長は部屋に備えつけのミニ冷蔵庫から、冷たい炭酸水を出してくれた。
「どうぞ」
社長は冷静で堅実で、懐が深くて包容力があって、俺の周りにいる誰よりも大人だった。
NormalやSubの彼女とは付き合ったり別れたりしているが、Domの彼女とはうまくいかないのだと時折こぼしている。自身がランクの高いSubなので、釣り合ったランクのDomでないと、ダイナミクスの欲望が満たされないという。
「変なこと聞くけど、自分のダイナミクスに気づいたのって、いつぐらい?」
「そうだな。中学の頃には薄々察してたかなあ。Domに生まれたかったって思ってたけど、こればかりは選べないからね。でも、いまはSubで良かったと思うよ」
組織のトップはDomが多いが、Subも少なくない。トップダウンで進むワンマンのDomより、まわりの意見に耳を傾けつつ、うまく調整していくタイプの方がうまくいくこともある。
「どうしたの、緋聖くん。なにか気にかかってることでも?」
「いや、それほどじゃないんだけど、」
そう前置きして、俺は話しだした。
碧はSubだと思う。でも、確証が持てない。Subにしてはガードが緩すぎて不自然で、でもどうにも気になる。
「自分のことをノーマルだと思いこんでるSubっているかな」
「そうだね。気づいてないとか、あとから発覚するってことは、ないとは言い切れないね」
事後のタバコに火を点ける社長を見ながら、俺はベッドの上に転がっていた。
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