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 つるが、子雀の舌を切ったとき、世平は寝たふりをしてつるの話を聞いていた。  彼女が子雀を追い出したのは、子雀のためであると同時に、絵や文をかくこともせず子雀に夢中な自分を戒めるためだと世平にはわかっていた。  だから、今度こそ本気で絵草紙作りに取り組もうと、かつてきよから譲られたお宝を掘り出しに山へ入ることにした。  若い頃、きよは、隣村の網元の囲い者だった。網元との間にできた男の子を、子がなかった網元の女房に渡す代わりに、宝の詰まったあのつづらを受け取ったと言っていた。 「世平坊ちゃん、つづらは、裏山にある座布団型の石の下に埋めておきましたからね。どうしても、お金が入り用になったときは、どうぞ掘り起こして役立ててくださいね」  五年前、かつて世平が暮らしていた庄屋の屋敷の離れで、きよは、天寿をまっとうして亡くなった。世平が絵草紙作家となった今、きよもあの世で、少しはほっとしているかもしれない。  そして今、世平は新しい絵草紙で、命を救ってもらった鳥が、助けてくれたつまらぬ男の元へ、人となって嫁に来る話をかいてみようかと考えている。  鳥は、もちろん「つる」である――。
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