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4.私は幸せなのだ
あれから私達は共に暮らしだした。
レオナールから「ずっとキミが好きだった」と言われたからだ。
友人として招いたつもりだったからもちろん戸惑った。だが、抱きしめられて熱っぽく見つめられ「どうか僕の想いを受け止めてほしい……」と懇願されて、私はうなずいたのだ。
あれから半年経ち、私は幸せに彼と暮らしていた。
私を大切に思ってくれる存在が、ずっとそばに居てくれる。
私をずっと見守っていてくれる。私は幸せだ。幸せなのだ。
「どこに行っていた?」
「え? 仕事に……」
私が仕事から帰ると、レオナールが無表情で立っていた。私は無意識に身を固くする。
「随分と遅かったようだが?」
「あの、今日はマスターが不在だから遅くなると言っ──」
「言い訳はするなっ!!」
ドンッ──と、大声と共に壁を叩かれ、身を縮めた。
「……ごめんなさい……」そう震える声で言えば、彼は、レオナールは優しく私を抱きしめた。
「すまないシャルノ……ただ、僕は本当にキミが心配なんだよ」
「はい、分かってます……ごめんなさい……」
分かっている。彼はとても心配性なのだ。
だからいつでも私の所在を気にするし、仕事以外で誰かと関わる事を嫌がる。
それほどまでに、私を愛してくれている。
「さて、そろそろご飯にしようか」
「あ、はい。すぐ作りますね」
いつもの穏やかな声に戻った彼に安堵する。
そして私は急いで夕食の準備に取り掛かった。
疲れているレオナールの為に、今日も栄養満点で美味しいご飯を作ろう。
レオナールは慣れない平民生活で苦労しているようだ。
毎日必死に仕事を探しているようだが、中々自分に合った仕事を見つけられないらしい。
やっと見つけた仕事も人間関係のもつれや、やりがいのない仕事を押し付けられたり、本当の自分を理解してもらえなかったり、と職場が合わずに辞めざるを得ないようなのだ。
私と暮らす為に無理をしてくれているレオナール。
私を心配し助けてくれたレオナール。
今度は私が彼を支える番だ。
「今日の料理はなんだい?」
「今日はスープとサラダと、あとチキンとトマト炒めです」
「スープの具は?」
「あ……それもチキンです……」
本当は他の肉も買いたかったが、先日いいお肉を買ったばかりで少々サイフの中身が寂しいのだ。
なので今日は節約料理だったのだが、駄目だっただろうか。
恐る恐る視線だけ動かしレオナールを見ると、レオナールがふっ、と笑ったので胸をなでおろす。
「大丈夫、チキンだけでも僕は我慢するよ。シャルノが抜けているのはいつもの事だからね。そんなところも可愛いよ」
「ありがとうございます……」
レオナールは私の頬に口づけて、キッチンから出ていった。
レシピも満足に決められない私なんかを許してくれるレオナールに感謝しつつ、私は料理を続けた。
明日はやはりまたいい肉を買おう。前回のようにレオナールの分だけにすれば、きっとお金も足りるはずだ。
そんな幸せな生活が壊れたのは、数ヶ月後の事だった。
レオナールがお酒に溺れてしまったのだ。
「何で酒が無いんだっ! 買っておけと言っただろうっ!!」
空になったワインの瓶を投げつけられ、当たりはしなかったが壁がへこみ瓶が割れて飛び散る。
「れ、レオナール! これ以上飲んだら体に悪──」
「黙れ!」
パシリ──と頰が熱くなる。じわりと広がる痛み。頬を平手で叩かれたのだ。
「誰がこの家を与えてやったと思ってるんだ! 家族にも見捨てられたお前を助けたのは誰だ! それを忘れたのかっ!」
「……ごめんなさい……」
私のせいだ。
レオナールは頑張っているのに自分に合った仕事が見つからず、ストレスが溜まってしまった。
そして、私がとろいばかりにレオナールを支えてあげる事が出来なかったのだ。
きっと、もっと上手く精神的にも支えられていたならこんな事にはならなかったのに。
だからお酒に逃げてしまった。お酒がレオナールを変えてしまった。
「謝る暇があるならさっさと酒を買って来いっ!」
レオナールの拳が振り上げられる。
咄嗟に目をつぶり、衝撃に備えた。
ドンッと、大きな音の後に、続けて棚の倒れる音がした。
私は殴られて、ない。
「……え?」
何が起こったのか目を開き確かめようとしたが、目の前には見知らぬ男の後ろ姿が写り戸惑う。
そして、その男が振り返り私の腫れた頬を見て顔を歪めた。
「シャルノ様! 大丈夫かっ!?」
私を心配そうに見つめる男は……誰だこの人。
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