清子

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清子

 お盆が近づいたある日、佐鳥が一人の女を連れて山を上がって来て村長の家に案内した。  外出から戻った士郎は、座敷に佐鳥が来ていると義母に告げられた。それはつまり、例の老祈祷師を連れてきたのだなと、急いで座敷へ向かった。 「失礼します」  そう断って座敷に入り、士郎は驚愕する。  父と対面で座るのは、佐鳥と、そして若い娘であった。 「安部清子(あんべさやこ)と申します。この度はお招きありがとうございます」  娘は凛とした眼差しで士郎を見てそう言うと、頭を下げた。  それはあの夢の娘だった。夢で見た通り、白い着物に黒髪の美しい娘だ。 「士郎さんの手紙をご当主の清江(きよえ)様にお渡ししたところ、孫娘の清子様をお寄こしになると仰いまして、既に準備を整えていらしたのですぐにお連れしました」 「既に準備を? どういうことだろうか?」  士郎の父が問うた。 「はい。清江様は私が参るのをご存じだったようで、それで後継ぎである清子様をと」 「(わたくし)の母は早くに身罷(みまか)り、祖母の跡は私が継ぐ予定でございました。祖母の力にはまだまだ叶いませんが、(とう)の頃より修業して参った身でございます。あれについては私めにお任せください」  そう言うと、清子は深々と頭を下げた。 「とりあえず、お二人ともお疲れでしょう。今日はゆっくりとお寛ぎください」  村長である父がそう言った。 「ありがとうございます。実は私には次の予定がございまして、今日はこれでお(いとま)いたします」  佐鳥が告げる。士郎の頼みのため、東北巡りに遅れが生じていた。 「来年、皆様にお目にかかります折には、無事に大願成就されていますよう」  佐鳥はそう言うと、村長に送られ座敷を出て行った。その労に報いるため、父から謝礼を渡すことにしていた。  座敷には士郎と清子だけになった。 「やっとお会いできました。ずっとあなた様にお会いしとうございました」  清子は夢の中と同じことを言った。 「なぜ、僕を?」  士郎は尋ねる。 「夢の中でお会いしておりましたから」  清子は優しく微笑んだ。  彼女もまた同じ夢を見ていたのだった。      
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