4.初めての街と仲間たち

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4.初めての街と仲間たち

  「うわすげー! ビョンって出てくるビョンって!」  俺は今感動している。  小さな革袋から物量のおかしな物がいとも簡単に出てくるのだ。  だってこの革袋俺の手のひらぐらいしか無いのに、その中から椅子とか出てくるんだぞ!? まさにファンタジー!  マジックバッグと言うらしく、契約した人であれば生きもの以外ならどんな物も収納可能で取り出しも自由。  さすが剣と魔法の世界! と感動して見てたら勇者が俺の名前もマジックバッグに契約してくれた。  そしてさっそく勇者の膝に座って小さな革袋から馬鹿でかいカゴを取り出して感嘆の声を上げていたわけである。 「うわっ、入るときシュンってなる!」 「そんなに珍しいか?」 「うん! 初めて見たっ、凄いねこれ!」 「そうか」  勇者の膝に抱っこされながらニコニコと微笑ましそうに見られてちょっと恥ずかしくなる。  はしゃぎ過ぎたかな?  今更だけど勇者の膝の上ってのもなんだか恥ずかしい。契約する為に流れるように膝に乗せられたからなんか当たり前のように座ってたけど、子供扱いされてるのだろうか。  まぁ生後2日の生まれたて淫魔だけど。 「そのうちお前専用のマジックバッグを買ってやろう」 「良いのか!? ありがと勇者!」 「ライトだ」 「ん?」  後ろを振り向き言葉に首をかしげると、勇者は俺の頭をクシャリと撫でて優しく微笑む。 「私の名前だ。ライトと呼んでくれ」  そう言った勇者、いやライトの金髪が木漏れ日を反射し優しく光る。 「ライト……すっごい勇者らしい名前だな!」 「そうか?」 「うん、めっちゃライトっぽい! あ、俺は優な」 「ユウか……可愛い名前だ」  言いながら俺のピンクの髪を指に絡めていた手を自分の口元へ持ってきて愛おしそうに口づけた。  えーなにそれキザっぽい! ちょっとドキッとしただろ。  この勇者はホストや結婚詐欺師とかも向いてるかもなぁなんて思いながら髪を勇者の指先から引き抜いた。だってなんか恥ずかしいし。 「……さて、そろそろ腹が減ったんじゃないか?」 「いや全然。昨日めちゃくちゃもらったし。食べ過ぎなぐらいでまだ苦しいよ」  これは遠慮じゃなくて本心だ。昨晩、簡易テントの中で腹壊すんじゃないかってほどごはんをもらった。つまりめちゃくちゃヤッた。  もう無理と泣いてもライトの腰は止まらなかった。  俺の制御できない魅了のせいだとは理解しているがそのうちライトに切れてしまいそうである。精気を分けてくれているだけだから俺が切れるのは理不尽だとは思うが、いくら何でもやり過ぎだと思うのだ。 「そうか……」  ガッカリしている所悪いが昼まで、いや夜まで、もしかしたら明日まで精気はいらないのではないだろうか。  頑張って魅了を制御できるようにならないとなぁ。  ライトが朝食を摂り、本当に精気はいらないのかと再度訊かれて断って、いよいよ街を目指す事になった。  この世界に生まれて初めての街である。胸が踊ってたまらない。 「嬉しそうだな」 「だって街行くの初めてだしさ! すっげー楽しみだよ」 「そうか」  なんたって剣と魔法のファンタジー世界だ。前世では空想の世界だったのに、ここでは現実。 「ライト早く行こう!」 「分かった分かった。そう引っ張るな」  俺のはしゃぎっぷりにライトは呆れたような声を出すが、表情は楽しそうだったから遠慮なく大きな手を引っ張って急かしたのだった。  ※ ※ ※ 「何なのよこの子」 「ユウだ」 「名前訊いてるんじゃなくてさぁ、その子魔族よね? 何でそんな子連れてきてんのかって訊いてんのよ」  俺たちは街に着いた。  ライトのローブを借りてツノや羽根を隠し、道に出て乗り合い馬車をつかまえ一時間ほど馬車に揺られたら着いた。  街に着き、日本とは明らかに違うゲームのような世界にワクワクと……してる場合じゃなかった。 「まさかその子連れて行く気じゃないでしょうね?」 「連れて行くつもりだが」 「バッカじゃないのっ!?」 「ま、まぁまぁ落ち着いてルミナ……」  俺に厳しい目を向けてくるのはライトの仲間の魔法使いの女の子ルミナ。赤毛でツインテールがよく似合う可愛らしい女の子だが、俺を見る視線は鋭く不機嫌を隠そうともしなかった。  隣でオロオロとしながらも何とかルミナを落ち着かせようとしている黒髪の青年は魔物使いのヴァロで、肩に鳥型の魔物を乗せている。 「ヴァロだって魔物を連れているじゃないか」 「魔物と魔族じゃ違うでしょ! それともその子に首輪でも付けてペットにでもするつもり!?」 「なっ、卑猥なことを言うな!」 「何鼻血だしてんのよ変態!」 「二人とも落ち着いてくださいよぉ……」  ヴァロは苦労してそうだぁ、なんて他人事のように考えている場合じゃない。  どうしよ、俺ライトの仲間から受け入れられて無いぞ。  勇者の仲間と魔族なんだから当然の反応なのだが、このまま受け入れてもらえなかったらやっぱり始末されてしまうのだろうか。  俺が体を縮こませてソワソワとしているうちに喧嘩は終えたようで、ルミナが最後に俺を睨み大股で歩き出した。 「私は絶対にアンタなんか認めないんだから……」  吐き捨てるようにぶつけられた言葉はダイレクトに俺の胸に響き泣きそうになってしまう。  やっぱり離れた方が良いのだろうか。このまま付いて行って殺されるぐらいなら隙を見て逃げようか。  一人になるのは心細いがこのまま殺されるよりはマシだろうし、そのうち魔族の友人とかもできるかもしれない。  ただ問題は精気の採取だ。俺は淫魔に生まれたのに魅了をまともにコントロール出来ない上に男だ。そんな俺が定期的に男から精気を奪うなんて事が出来るだろうか。  どうしよう、とうつむいていたら不意におおきな手のひらが俺の頭を撫でた。 「心配しなくて良い」 「ライト……」  見上げると青い瞳が優しく俺を見ていた。 「ユウは必ず私が守る。だから安心して私のそばに居てくれ」 「……うん、ありがとう……」  ライトの優しさが俺の不安を消していく。  きっとそう簡単には受け入れてもらえないだろうが、俺も役に立つ所を見せればいつかは認めてもらえるようになるかもしれない。  俺が役に立てる事があるか分からないけれど、もう少しだけライトのそばで頑張ってみよう。  そう決意し、俺も新たな一歩を踏み出した。  ※ ※ ※ 「すっげぇっ! 水が出た! かっこいい!!」 「ふふんっ、私は万能だから回復魔法だって使えるんだから」 「マジで!? 見たい!」 「ちょっと! 何わざと怪我しようとしてんのよ! 私の魔法はお安くないんですからね」 「えー……、じゃあさっきの炎がぼーって出るやつまたやって!」 「全くしょうがないわね、見てなさい」 「すげぇかっけぇ! 一撃じゃん!」  俺は、なんかいつの間にかルミナと盛り上がっていた。  ギルドから依頼された魔物を倒しに森に来た。そこでルミナが繰り出す魔法を目の当たりにし大興奮してしまった俺は、嫌われている事も忘れて騒ぎまくってしまった。  すると、褒められまくって気分が良くなったのかルミナは俺にみせつけるように派手な魔法をたくさん使いだした。  更に興奮する俺、更に調子に乗るルミナ。 「…………私だってファイアボールぐらいなら……」 「ライトさん妬かない妬かない」  そして忘れられるライトとヴァロ。 「良かったじゃないですか仲良くなって」 「……それはそうだが」 「自分がユウくんとルミナの仲を取り持ってユウくんに尊敬されたかったんですよね?」 「……」 「図星ですか……」  ポンポンと背中を叩かれ励まされているライトの事など知る由もなく、俺は華麗に繰り出される魔法に夢中になるのだった。  宿に戻ってやたらライトから甘えられ、ねちっこく精気を与えられる事になるとは、この時の浮かれた俺はまだ知らない。  
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