四人目の魔女の呪い

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 月の明るいところと暗いところがくっきりと見える、美しい満月の晩。  リエール姫の誕生祝いが、城の大広間にて行われました。  まだ首の座らないリエール姫は、壇上に置かれたゆりかごの中ですやすやと眠っています。  真っ白なテーブルクロスがかけられた長いテーブルの上には、金の皿。そしてその横には、ダイヤとルビーが装飾されたカトラリーが置いてあります。  招待客は次々と運ばれてくる豪勢な食事に喜び、上等の酒に酔いしれました。  さて、祝いの会が終わりに近づいた頃。三人の魔女が国王とお妃様の前に進みでました。  年長の魔女がにこやかに挨拶をします。 「めでたき会にお招きくださり、心より感謝を申し上げます。王女様に贈り物をしたいのですが、よろしいでしょうか?」 「もちろん! 礼を申す」  三人の魔女は、お妃様に抱かれているリエール王女に向かって魔法の杖を振りました。  一人目の魔女は「美しさ」を。二人目の魔女は「健康」を。リエール王女に贈りました。  三人目の魔女が「聡明……」と口に乗せようとした瞬間。雷が鳴り響き、大広間にある蝋燭の炎がいっせいにゆらめきました。  黒い煙とともに姿を現したのは──呼ばれなかった四人目の魔女。    黒いフードからこぼれているのはボサボサの白髪。腰の曲がった瘦せた体。ぎらついているつりあがった目。曲がった鷲鼻。気味の悪い薄ら笑いをこぼす貧相な唇。  招待客の口から「ば、ばば、化け物……っ!」と慄きの悲鳴が飛びだしました。それほどに、四人目の魔女はみすぼらしい姿をしていました。  ですが、真の恐怖はここから。彼女は耳障りな甲高い声で呪いの言葉を放ったのです。   「キーヒッヒッヒッ!! よくもアタシを除け者にしたねぇ。王女に報いを与えてやろう」 「違うのです! 招待状を送ったのだが……」  白髭の大臣が声を張りあげたものの、突風に襲われ、口を結びました。  魔女ミルーシェは両手を広げて強風を起こし、テーブルの上にある金の皿を飛ばしました。皿に乗っていた肉やじゃがいもや葡萄が飛ばされ、招待客のドレスを汚します。  あちらこちらで悲鳴が起こるなか、魔女は杖を持った片手を掲げました。雷が鳴り響きます。 「この子は十五歳の誕生日にになって、火に焼かれて死ぬだろう」 「なぜ、ぬいぐるみ⁉︎」  王様が咄嗟に放った疑問に、魔女はニヤリと薄気味悪く口角を上げました。 「火をつければ、すぐに燃える」 「あ……ッ」  気絶する王妃様。リエールは大広間の騒動をキョトンとした顔で見ています。王様は、倒れた王妃様の前に立ちました。 「手違いがあったようだ! 詫びよう。貴女の願いをなんでも聞く。娘の呪いを解いてくれ!」 「アタシが欲しいのは、ぬいぐるみが焼かれる瞬間さ! キーヒッヒッヒ!!」  魔女ミルーシェは調子の外れた高笑いをすると、杖を一振りし、姿を消したのでした。  あとに残ったのは、床に散乱した皿とカトラリーとぐちゃぐちゃになった食べ物と髪の乱れた招待客。その顔とドレスは肉のソースや果実の汁で汚れています。  百人を超すゲストがいるというのに、生唾を飲む音が聞こえそうなほどの静寂。目を覚ました王妃様の啜り泣きが響きます。 「どうしたら……」  悲嘆に暮れる王様に、三番目の魔女が告げました。 「ミルーシェの呪いを打ち破ることはできませんが、緩和することはできます。王女様はぬいぐるみになります。ですが、愛する王子様のキスによって、人間に戻ることができるでしょう」 「本当か⁉︎」  沸き立つ大広間。この場で、隣国のルードリッヒ王子がリエール王女の婚約者となったのでした。  このとき、ルードリッヒ王子は四歳。それでも彼は自分の役割を自覚しました。 「ボクがリエールを人間に戻します。恐ろしい魔女から守ります」 「実に頼もしい。ぬいぐるみになっても、ルードリッヒ王子のキスで人間に戻ることができる」  誰もが安心し、胸を撫で下ろしたのでした。  そうして月日は過ぎ、リエールは十五歳の誕生日を迎え、ぬいぐるみへと姿を変えました。  
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