四人目の魔女の呪い

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 さて、リエールがぬいぐるみへと姿を変えたのは、ルードリッヒとのお茶会の席でした。  今日はリエールの十五歳の誕生日。ぬいぐるみに姿を変えるのがわかっていたので、ルードリッヒはハイリシュエン国を訪ねてきていました。  王子の目の前で、リエールはそれはそれは可愛らしい、真っ白でふわふわのうさぎのぬいぐるみへと姿を変えました。  王子は組んでいた足を外すと、かすれた声で「可愛い……」とつぶやきました。  真っ白ふわふわうさぎのぬいぐるみは、平均的二歳女児の大きさ。膝の上にちょこんと乗せるのにも、胸に抱きしめるのにも、肩車するのにも、高い高いをするにも、ちょうどいい大きさです。  ルードリッヒは片手を額に置き、苦悩します。 (リエールを人間に戻さねば。だが、待て。こんなに可愛いぬいぐるみに変身するとは考えてもいなかった。究極に愛でたい!)  リエールを恐ろしい魔女から守るために、ルードリッヒは世界一厳しいと言われている騎士学校に通っていました。その騎士学校で、ルードリッヒは常に主席。学業も実技も、王子の右に並ぶ者はいませんでした。  仲間たちがパーティーだ、どこぞの店の女の子が可愛い、知り合いが女を紹介してくれる、デートでキスをした、などといった浮かれ話に、ルードリッヒは一回も混ざったことがありません。  机で魔女の歴史の本を熱心に読んでいました。 (魔女の歴史書には、ミルーシェという名の魔女が何回か登場している。千年前、六百年前、五百年前、二百年前……。これらは偶然、ミルーシェという名前の魔女なのだろうか? もしや、不死薬を実現して生きている同一人物の可能性も……。もしも不死身であるのなら、どうやって倒せば……)  剣術では魔女を倒せないかもしれない。魔法に対抗するには、魔法。  そう考えた王子は騎士学校を中退して、現在は魔法学校に通っているのでした。  すべては、愛するリエールを守るため——。  親が決めた婚約の元、真実の愛から遠く離れた相手と結婚しなくてはいけない王族が多い中で、愛する女性と結ばれることのできるルードリッヒは幸せ者です。  ですが、ルードリッヒは重大な問題を抱えていました。  それは——。 「どうしよう……ぬいぐるみになっちゃった……」  自分のふわふわの手を見て、嘆くリエール。  王子はクールに声をかけました。 「まさかのうさぎかよ。鈍臭いリエールにぴったりだな」 「うう……」 「おまえさぁ、ニンジン嫌いなんだろう? ははっ! なのに、うさぎってウケる。これからはニンジンを食べるんだろうな。なんたってうさぎなんだから」 「でも、心は私のままだから、ニンジンは……」 「だからなに? 体はうさぎだろう? 山ほどのニンジンをプレゼントしてやるよ」  意地悪なルードリッヒにリエールは、「うう……」と言葉を詰まらせ、くすんと鼻を啜りました。  人間だったら涙をこぼしていたでしょう。  ぬいぐるみの澄んだガラスの目が、ルードリッヒを睨みます。 「ルーヒの意地悪! 嫌いっ!!」  そうです。ルードリッヒの抱える問題とは、リエールが好きなあまり、意地悪な発言をしてしまうこと。そしてその結果、リエールに嫌われているのです。  
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