四人目の魔女の呪い

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 ルードリッヒは長い足を組むと、カエルを前にした蛇のような笑みを浮かべました。  外に設けられたお茶会の席。カップに入った紅茶に、大樹の葉が風に揺れている影がちらちらと映っています。  のどかな時間にふさわしくない、傲慢な声。 「おまえが俺のことを嫌いでもさ。ぬいぐるみになったんだから、俺とキスしないといけない」 「はわわっ!」  リエールうさぎは動揺し、陶器製の椅子からポトリと落ちてしまいました。  離れた場所から見守っていた侍女が駆け寄ろうとするのを、王子が手で制します。 「助けるな」 「ですが……」 「うー、バタバタ」  慣れないぬいぐるみの体で、必死に起きあがろうとするリエール。手足をバタつかせ、お尻を懸命に持ち上げます。 (なんだ、これ。可愛い以外の言葉がでてこないぞ。キスをしたいが、ぬいぐるみ姿をもっと見ていたい。どうすればいいのだ……)  リエールを人間に戻す義務と可愛いもふもふうさぎとの間で、葛藤するルードリッヒ。  リエールうさぎはどうにか起き上がると、拳をグーにして叫びました。 「ルーヒの意地悪っ! キスしなくていいもん! 私、ぬいぐるみでいる!」 「はぁ? なに言ってんの? 火に焼かれて死にたいのかよ」 「そういうわけじゃないけど……。でも、ルーヒとキスするなんて嫌っ!」 「はっ! 生意気な女。いいか、よく聞け。俺は大国ユーストリアの王子。顔も頭もいい。剣の名手でもある。世界中の女が俺とキスしたがっている。だが俺はこのときのために、寄ってくる女を追い払ってきた。俺の初めてのキスをおまえにくれてやるんだ。ありがたく思え」  リエールは(こういう横暴なところが大嫌いっ!)と、うさぎのほっぺを膨らませます。 「全然嬉しくない! むしろ迷惑!」 「迷惑だと? 生意気なうさぎには躾が必要だ。俺に逆らうとどうなるのか、その小さな口に教えてやる」 「口になにを教えるの?」 「キスのやり方」 「きゃあーーっ!!」  うさぎのぬいぐるみになっても、声はリエールのまま。飴がとろりと溶けたような甘ったるい悲鳴が、王子の胸を甘くかき乱します。 「待てっ! 逃げるな!!」 「逃げる!! 「隠れるな!」 「隠れる!!」  リエールうさぎは短い足を一生懸命に動かして、侍女のスカートの中へと逃げ込みました。  王子と目が合った、侍女サランシュアは曖昧に笑います。 「あ、あの……」 「リエールがぬいぐるみになった。王様とお妃様への報告は?」 「はい。もう一人の侍女が報告に走りました」 「そうか。それではまもなく王様たちが来るだろう。君が、リエールを人間に戻す邪魔をしていると思われるかもな。最悪、ミルーシェの仲間だと疑われる可能性もある」 「そんな! わたくしはあの恐ろしい魔女の仲間などでは!」  サランシュアの悲痛な叫びが、リエールうさぎの長い耳に届きます。優しいリエールは、サランシュアを守るためにスカートから飛び出しました。全力で次の隠れ場所へと走ります。  
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