別れのほとりで

2/10
前へ
/10ページ
次へ
 遼輔は完全に小馬鹿にして「はは、は」と、口元を引きつらせる。 「血判状もだけど、たましい、って。気味が悪い冗談だな」 「言い回しが気になるようなら、きもちでも、深層心理でも、お好きにどうぞ」 「待てよ。俺ら血判も何も、心当たりがないよ。とっとと帰らせてくれないかな」  その時、シズリと名乗った女性の視線が、遼輔の肩越しに隠れるように立つ、育美へと向いていることに気づいた。唇の血色をやや悪くした彼女は、顔も背中の角度も、下向き加減になっている。 「少なくとも奥様の方は、一度は固めた覚悟を、思い出したようですね」  シズリの言葉は今度こそ、育美に向けられていた。  そして、続ける。 「あなた方夫婦は、年月をかけて、大事な物を分け隔てる準備を進めてきたはずです」 
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加