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遼輔は完全に小馬鹿にして「はは、は」と、口元を引きつらせる。
「血判状もだけど、たましい、って。気味が悪い冗談だな」
「言い回しが気になるようなら、きもちでも、深層心理でも、お好きにどうぞ」
「待てよ。俺ら血判も何も、心当たりがないよ。とっとと帰らせてくれないかな」
その時、シズリと名乗った女性の視線が、遼輔の肩越しに隠れるように立つ、育美へと向いていることに気づいた。唇の血色をやや悪くした彼女は、顔も背中の角度も、下向き加減になっている。
「少なくとも奥様の方は、一度は固めた覚悟を、思い出したようですね」
シズリの言葉は今度こそ、育美に向けられていた。
そして、続ける。
「あなた方夫婦は、年月をかけて、大事な物を分け隔てる準備を進めてきたはずです」
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