別れのほとりで

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 二人揃って反論できずにいると、シズリは務めを果たす気でいるらしく、足元も軽く身体を反転させる。 「では確認から。お一人ずつ、名前をおっしゃってください。フルネームで」 「――橘 遼輔です」 「橘、育美です」 「お二人とも、年齢は同じ四十歳。はい結構です。次に遼輔さんと育美さんが、魂レベルで、先日誓い合ったこと」  彼女の右手側に、巻物状の紙が出現した。開いてゆくカレンダーのごとく、ひとりでに紙は垂れ下がり、シズリが内容を読み上げる。  第一条 十年前に建てた家のローンは、名義の持分割合に従って、おのおのが生涯かけて返していくこと  第二条 離れて暮らすようになっても、互いをときどきは気にかけ、交流を持つこと   第三条 ゆき乃の元には、一年のうち何度でも、足を運ぶこと  ふむ、と、シズリが首を縦に振った。彼女の目だけに映る、付随する情報を確かめるかのように。 「遼輔さんたちは元々、中学の同級生だったようですね」 「ええまぁ。高校も同じで、大学生になってから付き合うようになりました」  遼輔が控えめな声量で言う。 「その後、結婚に至る。会社の同期誰もがうらやむ純愛。いいですね。でも……――お辛かったでしょう。ゆき乃さん誕生の年に建てた家に、毎日帰るのは」 「ゆき乃!」  育美が、顔面を手で覆い尽くしたまま、声を荒げた。既に息づかいには、おえつが混じっている。
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