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二人の肉眼には捉えられなくても、シズリの目の前には、橘家の墓石がおぼろげに映し出されていた。彼女はこっそり、理解する。ゆき乃の元、とは、ここを指すのだろうと。
「夫婦って、酷なものですよね。婚姻関係が結ばれた瞬間にはもう、別れが必ず運命づけられている」
「シズリさん。あんたさぁいちいち、言い方にとげがあるんだよ」
遼輔の発言は、怒気にまみれている。
「人間を、物理的に考えた視点で話しています。離婚や離別はもちろん、よほどの事情がなければ、夫婦が同じ時同じ場所で息を引き取ることも、ないと思いますので」
離婚や離別が幸か不幸かは、さまざまなケースがあるので、言及は避けておきます。シズリはそう付け足した。
「お子さんの寿命も、同じです。日本じゅう、世界じゅうで、悲劇は数多起きている。ましてや、それが身内に降りかかるなんて、想像だにしないもの」
「もうやめてくれって! 俺たちは今日まで充分傷ついたんだ」
「遼輔さん落ち着いてください。あなた方を解放するために、私は存在しているのです。けして敵ではありません」
遼輔はシズリから距離をとり、泣き続ける育美を、助け起こしていた。
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