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車で今回泊まる予定の旅館に向かった。
外観を見上げて、ボストンバッグをさげた優一が浮き足立つ。
「静、すごいね。ホームページの写真で見たのよりずっと大きくてきれいだ」
「うん、素敵だね」
中居さんに丁重に出迎えられ、部屋に案内されてまた感動する。
広々した和室で座卓があり、古民家のような落ち着いた雰囲気がある。専用露天風呂に続く出入り口があって、展望も最高だった。
「わー! 本当に部屋の隣に露天風呂がある!」
「滞在中はいつでもお好きなタイミングでご入浴いただけますよ」
「嬉しいです」
中居さんが「ご用命がお有りの際は、そちらの内線でフロントにお申し付けくださいませ」と頭を下げて退室する。
セルフサービスでお茶のセットも用意されているから、さっそく二人分のお茶を入れてくつろぐ。
「優一さん運転で疲れたでしょ。夕食の前に、お風呂で温まるといいと思う」
「ありがとう。でも見て。内風呂は広いから二人で入れるよ」
優一に提案されて、静は顔が熱くなった。
本当の夫婦になると誓い合ってからは夜の関係もあるけれど、一緒にお風呂に入ったことはない。それに、寝るときは部屋の電気を消しているから、体を直視されることはほとんどなかった。
結婚しているのに今さら、と言われるかもしれないけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「で、でも、私、このひと月半でちょっぴり太ったし、いま、明るいし」
「これまでが痩せすぎていただけ。太ったんじゃなくて、健康的な体型になったんだよ。もしかして僕とお風呂に入るのは嫌?」
「嫌じゃ、ないです」
「じゃあ決まりね。背中の流しっこしよう」
無邪気に言われ、ついに静は根負けした。
こんなふうに、優一はときどき静より幼い面を見せる。
温泉に入るのにもすごく嬉しそうで、微笑ましい。
新婚旅行初日の夜は、ゆったりと過ぎていく。
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