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食事のあと、スマホを見ると祖父からメッセージが来ていた。
『優一、静。旅行楽しんでいますか。旅行が終わったらいったん顔を出してくれないか。大切な話がある』
祖父は入院していたとき、「娘達がお望みなら退院後に遺産の話をする」と言っていた。
公証人のところに行って遺言書を作成したのかもしれない。
血を分けた娘から死ぬことを望まれている……祖父の気持ちを考えると、悲しくなる。
『必ず行くよ。お土産買っていくから楽しみにしていて』と返信して、部屋の電気を消した。
完全な暗闇ではなく、障子越しに入る月明かりがあるから、かすかに物の形がわかる。
静が優一に手を伸ばして、形を確かめるように、頬や肩をなぞる。夕食で出た日本酒は少量だったけれど、酒を飲み慣れない静が酔うには十分過ぎた。
いつも以上にのんびりとした口調で笑っている。
「ふふふ。優一さん、優一さん、知ってますか。私は、優一さんのことがーだーいすきなんれすよー」
「うん、知ってるよ。僕も静のこと好きだもの。…………ねえ静。一つお願いがあるんだ」
「ひゃ。な、なんです?」
耳もとで囁くと、静は肩をビクンとはねさせる。
「静の今の話し方って、先輩と話すときと同じだろう。もっと砕けた言葉で話してほしいな。夫婦なんだから」
「えへへへ、わかったー。優一さん、ちゅーしよ、ちゅー」
この様子だと、明日になったら今の会話を覚えていなさそうだ。
無邪気でかわいいけれど、他の人にこの姿を見せたくない。
静がシラフのときに、人がいるときにお酒を飲んではいけないと言っておかないと。
静は額に、鼻筋に、唇に口付けて、優一の後頭部に手を回してくる。
普段ならやめるよう言えたかもしれないが、優一もそれなりに飲んでいた。
静の帯を解いて、布団の上に押し倒す。そして夜が明けるまで、幾度となく求め合った。
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