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祖父の決断
新婚旅行が終わり祖父母宅を訪れた静と優一は、居間に通された。
時計の秒針の音が大きく感じるくらいの静寂の中、祖父は静と優一それぞれに、一枚の書面を渡してきた。
A4用紙の一番上に、贈与契約書と書かれている。
文面を要約すると、生前贈与として静と優一それぞれに百万円贈与する。
「おじいちゃん、生前贈与って、僕たちに?」
「も、もらえないよ。おじいちゃんたちだって生活があるんだから」
静も優一も、まさか自分たちが贈与される側になると思っていなかったから、驚きを隠せない。
祖父は静たちの反応を予想していたようで、神妙な顔をして話を始める。
「遺産の話をすると言っただろう。渡すなら、イヨと優一、静にと思っていた。遺産相続の相続人の制度を、静は知っているかな」
「ええと、中学で習った範囲だと、配偶者が半分、残りの半分は子の人数で分配……だったかな? 基本的に孫は受け取れないよね」
「そう。孫のお前たちに渡るのは、松と梅が死んでいる場合、もしくは相続廃除手続きがされている場合だ。廃除手続きを進めているが、通るかは家庭裁判所の審判次第。ただ、松と梅を相続廃除できてもキララにも相続の権利が発生してしまう。それは避けたい。だからこうして、生前贈与することにした。死後に残る分に関しては、イヨと優一、静で分配するよう遺言書を作って公証人に預けた」
生前贈与であれば、相続人以外の人間にも財産を残すことができる。
祖父が考えた末に出した答え。
父親が死ぬことを願うような娘に、遺産を一円たりとも相続させるつもりはなかったのだ。
祖父が静と優一を思って用意してくれたなら、受け取るのが礼儀かもしれない。
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