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「相続する権利を廃除するって、できるものなの? お母さんたちの性格を考えると、すごく怒って反発すると思うの」
「ああ。遺産を残す人間に対して虐待、著しく人権を侵害する、社会的に不適格な行動をしているなどの証拠があり、『その者に相続させたくない』という意思表明の手続きをする。裁判所から承認されれば、松と梅は金を受け取れなくなる。もちろん、無理に遺書の内容を改ざんするように脅迫するのも罪になる」
父が入院しても見舞金を払いたくない、香典も出す気はないと宣言した二人だ。これまでの数々の行いも含めれば、廃除される確率は極めて高い。
「イヨの分はもう渡してある。あとは静と優一に。これまで助けてやれなかったお詫びの気持ちも込めて。どうか受け取ってくれ」
「……おじいちゃん。わかった。ありがとう。大切に使うね」
「静は謙虚だな。松と梅なら、これっぽっちじゃ足りないもっと寄越せ! と騒いだだろう」
祖父の皮肉に、その場にいた全員が内心で同意した。
「ありがとう、おじいちゃん。おじいちゃんの厚意、受け取るよ」
優一もお礼を言って、ペンケースからペンを出して署名する。
静が贈った名入りペンだ。
祖父は優一のペンを見てどこか懐かしそうにする。
「いいものを使っているな、優一。オレも若い頃、初任給でそのブランドの万年筆を買ったんだ。今も使っているんだぞ」
「そうだったんだ。このペンは静がプレゼントしてくれたんだ。すごく書き味がいいし、手に馴染むし、気に入っている。ありがとう、静」
「気に入ってもらえて、私も嬉しい」
それぞれ契約書に署名して、現金で受け取った。
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