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「この機会に銀行口座を作らないと。もともと持っていた口座は解約しちゃったし」
母にカード通帳届出印一式を取られていた口座は、紛失手続後に届いたカードと通帳を持っていき、解約した。
これでどうあがいても、母とキララは静からお金を取ることができない。
「それがいいよ。地方銀行の口座を作るのもいいけれど、もしものときのことを考えるとネット銀行がお勧め」
「ネット銀行って、コンビニのATMでおろせるっていう?」
「そういうメリットもあるけれど、入出金履歴がメールで来るし、通帳はスマホアプリだから叔母さんたちに奪われる心配がない。カードを紛失場合、ATMからの引き出し不能にする設定もネットからすぐできる」
「知らなかった。今ってずいぶんと便利になっているのね」
祖父が静のことを思って贈与してくれたお金だ。
絶対に、母とキララに奪われるわけにはいかない。現に、母は優一から百万円受け取ったその日のうちに、数十万円する服を買ってきたのだ。今度百万円手にしても、住宅ローンの残りを払う、仕事を始めるまでのつなぎの生活費にするというような建設的な使いみちは絶対にしないだろう。
優一のアドバイスを受けて、ネット銀行に預け入れることに決めた。
「優一は堅実だからな。きちんと将来のために使ってくれると信じているよ。静、優一を支えてやってくれ」
「もちろんだよ、おじいちゃん。静との生活のために、ちゃんととっておかないと。ね、静」
「うん。優一さんとがんばる。おじいちゃんとおばあちゃんは長生きしてね。私、話したいことがたくさんあるの。今回旅行で入った喫茶店、一緒に行ってみたい」
静の提案に、祖母は目を大きく見開く。
「あら、喫茶店? いいわねー。ナポリタンはあるのかしら」
「ナポリタンもあったよ。あと、トーストとかケーキセットとか」
「店内の内装もすごく懐かしい雰囲気で良かったんだ。僕、次に行くときはランチセットを頼んでみたい」
「それは楽しみだなぁ。スケジュール調整して行く日を決めようか。優一の休みはいつだ? オレは土曜が定休で……」
話に花が咲き、次に会う予定を決める。
会えなかった二十一年を埋めるように、たくさん、これからのことを話す。
祖父母といられて、静は幸せだった。
そして数日後。松と梅のもとに手紙が届く。
「遺産のことで話がある」という文面を見て、松と梅、そしてキララは祖父母宅に来訪する。
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