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寄生先を絶たれた松とキララの手元に残った金は五百円に満たない。
帰りのバス代に足りない。
バスで一時間かかる距離を歩いて帰らなければならない。
正月の寒空に無一文で放り出された静と、同じ状況だ。
あの日の静と違うのは、電話が使えないこと。
二人の胸中にあるのは、自分に金をくれなかった人たちへの怒りと憎しみ。
(なんであたしたちがこんな扱いを受けなきゃいけないのよ。なんで。なんで。なんで無能な高校中退の静が遺産をもらえる権利を得て、娘のあたしはこんな寒空に放り出されるの。全部全部、悪いのはあいつら。あたしはなにもしてないのに。なにも、してないのに。そもそも、なんで静を家政婦にするって言った優一が遺産の相続権を得られるのよ。おかしいわ)
日が暮れる頃、ようやく家に帰り着いて、ゴミの中から優一が百万円を渡してきたときの封筒を見つけ出した。いつか役立つと思って取っておいてよかった。
優一が最低な人間だという証拠を警察に出せば、優一が相続権を失ってキララの取り分が増えるかもしれない。
水引きが結ばれ、金色の鶴が印刷された和紙製の、豪奢な袋。
内袋には、【百万円 結納金として】と達筆な文字で書かれていた。
これを警察に持って言って「優一が娘を家政婦として買った」ところで、ただの虚言としか取られない。
静と優一は婚姻届を出して結婚している。そして金が入った袋には結納金と書かれているから、優一の言葉のほうが真実になる。
あの場にいた親族に証言をお願いすればいい。
キララが受け取ることになる遺産のうち五万やると言えば、証言してくれるはずだ。
公衆電話から父方の叔父に電話した。
「何を寝ぼけているんだ、松。優一くんは最初から、静と結婚したいから結納金を渡すと言っていたじゃないか」と答えた。
母方の叔母に電話しても、叔父と同じ証言をする。
自分たち以外のみんながそう云うのなら、松とキララが「家政婦として買う」と思い込んでいただけなのだろうか。
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