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優一は三つの紙袋を抱え直し、エレベーターのところにあるフロアマップを指す。
「靴とバッグを買ったら、ごはんは別のところで食べようか。この様子だとフードコートは席が空いていなさそうだし」
「あ、はい」
時刻は昼十二時を回ったばかりで、しかもまだ正月の四日目。両手にショップバッグだけでなく、福袋をさげた人がごったがえしている。
それにさっきから、何度も迷子お知らせアナウンスが流れている。
優一がずっと静のほうを振り返りながら歩いてくれるから見失うことはないけれど、気を抜くとはぐれかねない。
「うあああああん! ママああああ、パパあああ! どこーー!?」
近くにいた三歳くらいの女の子が、大声で泣きはじめた。
まわりの人はどうしたものかふりかえりながら歩き去る。目の前のベンチに座っていた三人組の男性も、迷子が気にはなるようだけど「俺らみたいのが声かけると誘拐と疑われるしなあ……」「かといってほっとくのもなあ」とささやきあっている。
静は女の子の前に膝をついてゆっくり話しかける。
「どうしたの。ママとはぐれちゃった?」
「あうううう、うん、これ、みてただけらのに」
小さな手にガチャポンのおもちゃを握りしめている。これに夢中になっているうちに、両親を見失ってしまったようだ。
世界に一人だけ取り残されたような不安でいっぱいの顔をしている。
「お名前、言える? 私は静」
「まーちゃん」
「そう、怖かったね。まーちゃん、お店の人にママを探してもらおう。ね? お姉ちゃんが一緒に「ママをみつけて」って言ってあげるから」
「う」
静がハンカチで女の子の涙をふいて、手をつなぐ。
「優一さん、買い物、あとでもいいですか」
「もちろんだよ。その子の親を探してあげるのが優先だ」
ちょうど今いる階に案内所があったから、そこのに向かう。
道すがら、女の子に何回も声をかけて案内所まで行くと、そこには優一くらいの年齢の夫婦がいて右往左往していた。
「まま、ぱぱ!」
女の子は一直線に二人に向かって走り出す。
「まーちゃん! ああ、よかった! もう、だめでしょう、勝手にどこか行っちゃ」
「うあああん! まーちゃんら、ないもんん、ぱぱとままがどっかいっちゃ、らも、ん」
女の子からすれば、勝手にいなくなっちゃったのはパパとママのほう。小さな拳で叩かれて、両親は何度も女の子に謝り、再会出来たことを泣いて喜んだ。
「うちの子を助けてくださってありがとうございます」
「いえ。当然のことをしただけです。まーちゃん、ママとパパに会えてよかったね」
「しーたん、あーがと。ぷいきゅあみたい」
お父さんに抱き上げられた女の子は、握りしめていたなにかを静に渡した。
魔法少女の変身コンパクトだ。三センチくらいのキーホルダー。
「……くれるの? これはまーちゃんの宝物じゃないの」
「うん。しーたん、ひーろーらから」
「そっか。ありがとう、まーちゃん」
女の子の家族を見送って、静はほっと息をついた。
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