これまでできなかった分の想いを込めて

3/3
前へ
/115ページ
次へ
「誰かのために動けるって、優しいね静ちゃん。昔と変わってないな」 「……へ? あの、私と優一さんって、お父さんの葬儀のときくらいしか会ってない……です、よね?」 「実叔父さんのお見舞い、していたでしょう。すれ違っただけだから静ちゃんは覚えていないだろうけれど。静ちゃんが手作りの薔薇をくれたんだって、叔父さんはすごく嬉しそうだった」 「そう、だったんですね。……お父さんが教えてくれたんです。白薔薇の花言葉は尊敬。尊敬する人に贈る花なんだって。だから、どうしてもお父さんに贈りたくて。お店で売っている花みたいに綺麗じゃないから、お姉ちゃんにはゴミだって笑われちゃった」  父のことを話したのは何年ぶりだろう。  静はフロアマップを見上げて、一角に視線をとめた。 「あの、優一さん。ご迷惑でなかったら、フラワーショップにも立ち寄っていいですか? 自分で買うので」 「もちろん」  上の階で靴とバッグを買ったあと、店員に頼んで白薔薇の花束を作ってもらった。  それから寺に立ち寄り、実の墓に向かう。  静が父の墓に手を合わせることができたのは、葬儀の日以来だった。坂部家の墓があるのは、自宅から徒歩で行ける距離ではなかった。  優一が場所を知っていたため、迷うことなく墓につくことができた。  静は薔薇を供えて、うっすら雪が積もった墓石に語りかける。  二人の他に墓参りに来ている人はなく、鳥の鳴き声が大きく感じるくらいに静かだ。 「お父さん、久しぶり。ずっと会いに来れなくて、ごめんね」  静の隣で、優一も墓に手を合わせ、目を瞑る。  保坂家の墓は他の家の墓に比べてずいぶんと苔むし、薄汚れている。  母とキララは、父の入院中に一度も見舞いに行かなかったくらいだ。盆の墓参りにだって来るわけがない。  静が心から敬愛する父なのに、死んでからも二人に雑な扱いをされている。  悲しくて悔しくて、静の瞳から涙がこぼれ落ちる。 「何もしてあげられなくて、ごめんね。お父さんのことが嫌いで来なかったわけじゃないからね」  静は手で届く範囲の苔を落とし、ハンカチで汚れを拭う。静の手が届かない高さの苔は、優一が落としてくれた。 「静ちゃん。次に来るときは掃除道具を持ってこよう」 「はい」  立ち去る前に、優一が墓に向かって深くお辞儀をした。 「実叔父さんが叶えられなかった分、僕が叶えるから……だから、どうか安らかに」  父が叶えられなかったものがなんなのか、静にはわからない。けれど、とても真摯で、誠意を感じる言葉だった。  
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加