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優一の真意
「夢を見ているみたい」
お風呂で体の芯まであたたまり、ボストンバッグに詰めてあったボロの長袖を着る。
「お風呂、ありがとうございました」
キッチンにいる優一に声を掛けると、優一が鍋を片手に振り返る
「静ちゃん。僕、お腹が空いたから夜食を作ったんだ。作り過ぎちゃったから、一緒に食べてくれるかな」
「え、あの、はい。それなら、いただき、ます」
妻という名の家政婦になるんじゃなかったかな。夫に作らせるなんていいんだろうか、なんて考えてしまうけれど、作りすぎたと言っているし、手を付けずに残すのは優一にも食材を作ってくれた農家にも申し訳ない。
テーブルに二人分の月見うどんを並べて、手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます。静ちゃん、箸の持ち方うまいね」
「……ありがとう、ございます。お父さんが、きちんと使えるようになりなさいって、小さい頃教えてくれたんです」
向かいに座る優一が褒めてくれる。寝る前だから、ゆったりしたパジャマ姿だ。
与えてくれる言葉ひとつひとつが優しくて、ひだまりのよう。
うどんも、醤油出汁ですごくおいしくて、お腹もあたたまった。
「あの、私、家政婦になればいいんです、よね。ここまでしてもらうなんて……」
「うちの母と、叔母さん、キララを騙しただけだよ。親戚の中じゃ、あの三人は厄介者扱いだから。みんな、機嫌を損ねないように当たり障りないことしか言わない。同族っぽい言い回しをすれば食いつくと思ったんだ」
ひと呼吸おいて、優一は言う。
「ずっと、なんとかしたいと思っていたんだ。叔母さんが親戚の集まりに連れてくるのはキララだけで、「静はみんなに会いたくないそうよ」なんて平気な顔をして言うんだ。叔父さんの葬儀で初めて会って、ずっと、何も言わずうつむいていて、ひどい目に遇わされているんじゃないかって。今回新年会に来たときも、静ちゃんを働かせているって言っていて、見ていられなくなった」
キララは働かず大卒までしたのに、静は高校を中退させられて働き詰め。
どう見てもおかしい。
どうしたら救えるか考えて、家政婦代わりによこせという言い回しをして、お金を出したんだと、話してくれた。
「そんなわけで、あの家から逃がすために婚姻届を使ったけれど、静ちゃんの気持ちが一番大事だからね。静ちゃんが嫌なら、婚姻届は今ここで破り捨てて構わない。次に住む場所も、叔母さんたちにバレないように用意するよ」
優一は静の置かれた状況を全て理解した上で、助けてくれた。
助けたって、なんのメリットもないのに。
百万円だって、安い額じゃない。それを用意して、助けてくれた。
胸に熱いものがこみ上げてくる。
これが愛情なのか、静にはわからない。けれど、その優しさに報いたいと思った。
「……破かなくて、いいです」
「そっか。じゃあ朝になったら役所に行こう」
優一は微笑み、丁寧に婚姻届を畳んでファイルに挟んだ。
静は自分の部屋に用意されていた布団に寝そべって、目を閉じる。
こんなに幸せな気持ちで眠りにつくなんて子供の時以来だ。
あたたかくて、うれしくて、これが夢だったら嫌だな、目がさめてもこの幸せが続いているといいのに、と心から願った
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