最期の願いを引き継いで feat.優一

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 優一はその足で叔父の見舞いに向かった。  あの様子だと、叔母とキララは一度も見舞いに行っていない。そんなのはあんまりだった。  あまり食事をとれないことを考慮して、病院の花屋で小さな花束を作ってもらった。  内科のナースステーションに声をかける。 「叔父の……坂部実の見舞いに来たのですが、可能でしょうか。無理なようならこれだけでも渡してほしいです」  花束と、見舞金の入った封筒を見せると、母よりやや年上の看護師は笑顔で応じた。 「大丈夫ですよ。それではこちらの面会ノートに記帳してください」  優一より前に、静の名が記されていた。たしかまだ高校生。小さめで、でもとてもきれいな読みやすい字だ。  優一が記帳している間、看護師は話してくれた。 「最初は職場の方も来てくれていたんですけどね……。最近は静ちゃんだけなので、甥ごさんが顔を見せてくれたらとても喜ばれると思いますよ」  患者の家庭事情に口を挟める立場でないにしろ、坂部家の妻子に思うところがあるようだ。  四人部屋の病室に入ると、叔父と少女が話しているところだった。 「あのねお父さん、退院したらしたいことたくさんしようね。クリスマスプレゼント考えてあるんだ。一緒に初詣も行きたい」 「……そうだな。静のためにも、がんばらないとな」  実の声は弱々しい。  同じ病室の患者がつけているラジオからはバラエティー特番の明るい笑い声が流れていて、沈んだ空気がよりいっそう際立った。  静はうつむき、時計を見て立ち上がる。 「そろそろ行くね。あんまり長居したら、お父さん、疲れちゃうもの」  本当はまだここにいたい、と顔に書いてあった。けれど静は帰る選択をした。  入り口に立っていた優一に気づき、会釈して帰っていく。  祖父とよく似た細い目、あごのライン。自分の血縁だとひと目でわかる子だ。  看護師の話だと、ほぼ毎日お見舞いに来ているそうだ。  さっきの会話からも、父を心から愛している優しくて温かい子だというのが伝わってくる。  本当にあの(・・)キララの妹だろうか。
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