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「静ちゃんは家を出てから全然連絡取ってないの?」
「うん」
「数日前にお母さんから電話で聞いたんけどね、キララとおばさん、家中のもの売って、その日暮ししているんだって。電気が止められて夜も家が真っ暗なのに、「もうすぐ親父が死んで遺産が入る」って言ってまわっているらしいよ」
「へぇ、そうなんだ」
自分で思っている以上に冷たい声が出てしまい、静はうつむく。
母もキララも、静を追い出してひと月以上経つのに、まだ働こうとしていない。
しかも、お見舞いに行っていないから祖父がとっくに退院していることを知らない。
一度でも病院に行けば、もうすぐ死ぬなんて発言は出ない。
心優しい祖父が死ぬのを心待ちにしている二人のことを理解できなかった。
きっとあの二人は、この先も自分で努力する日はこない。
嫌なことを誰かに押し付けて生きていくだろう。
家にある売れそうなものなんて、キララが買い集めていた美容アイテムやら、母が一回使っただけでやめたダイエット器具くらいだ。
引っ越していてよかったと改めて思う。連絡先を知られていたら、絶対に集られていた。静も優一も、助ける気なんて微塵もない。
「あ、ごめん。旦那さんとデート中だったよね。無事だってわかって、嬉しくなってつい。湯河原の旅、楽しんでね」
「ううん。心配してくれてありがとう、先輩。私は幸せにやっているから、大丈夫」
会計をして店を出ると、そろそろチェックインの時間だった。
「静。大丈夫?」
「うん。行こう、優一さん」
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