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新婚旅行の夜 feat.優一
夕飯は神奈川県内の漁港でとれた魚介と地場産の野菜づくしだった。
刺し身に天ぷら、茶碗蒸しにお吸い物。このあたりの名物しらす丼もついてきた。
予約の段階で優一が豚のアレルギーだと伝えてあるから、豚関連のものは代替品に置き換えられている。
だから気兼ねなく食事を楽しむことができた。
静は一つ食べるごとに、幸せそうに頬を緩ませる。
恥ずかしそうにしながらも刺し身の皿を受け取って、アジの刺し身を食べる。
刺し身や寿司を、まるで初めて食べるかのような顔をしてほおばる様子を見て、察した。
……まるで、ではない。本当に、初めて食べるんだ。
高校を中退させられて以来、家で食事をもらえず、口にできるのはバイト先のまかないだけ。給料はすべて母親に握られていた。
そんな生活では、贅沢品を口にする機会がなかっただろう。
静の受けてきた扱いを思うと胸が痛む。
「静は美味しそうに食べるから、見ていて気持ちいいな」
「へ!? そ、そんなふうにじっと見られると恥ずかしいです」
「お刺身が気に入ったなら僕の分も食べていいよ、ほら」
「あ、ありがとう優一さん。じゃあ、これと交換しましょう」
優一の差し出す皿を受け取り、代わりに自分の茶碗蒸しをくれた。
「ありがとう静。茶碗蒸し、大好きだから嬉しいよ」
「こちらこそ。お寿司やお刺身ってこんなに美味しかったんですね」
優一は見返りなんて求めていなかったのに。
静の優しさを受け取り、二人で舌鼓をうった。
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