愛のチカラ

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 式は二箇月後に行われた。  ドレスの仕立て直しに、思ったより時間がかかったのだ。日々刻々と変わって行く彼女のプロポーションに型を合わせるのは、並大抵の努力ではあるまい。  私は控室に、花嫁を迎えるため足を運んだ。花婿の父がエスコートを務めるのは異例だろうが、彼女の「成長」をずっと見守って来たのだ、ある意味では育ての親と言えなくもない。 「行こうか」  部屋に入ると同時に、純白のドレスが目に飛び込んで来る。三十五年前の妻の花嫁姿が、鮮やかに脳裏に蘇った。  完全なホモ・サピエンスの女性が、そこにいた。  ヴェールで隠された瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。桜色の唇が小さく動き、声帯が音を紡ぎ出す。 『……お義父(とう)様』  それが私の聞いた、彼女の最初の言葉だった。
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