【第3話】

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【第3話】

 私が理人と出会ったのは、三か月前だった。  諸事情あって、縁もゆかりもない旅館で働き出してから約一年。お世話になっている女将さんの下で淡々と働くだけの日々に、不満も満足もなかった。  ただ無味乾燥な生活を送るだけの日常。  旅館で働く人たちは、女将さんを含めてみんな五十代以上だし、結婚もしてる。お客さんも年配の方ばかり。まだ若い私にとっては、なんの刺激もない環境だ。  そんな生活に(いろどり)をくれたのが理人だった。  ふらりと一人で泊まりに来たと思ったら、そのまま一週間も連泊した理人。  大した観光場所もなく、名物といえば腰痛に効くと言われている温泉くらいしかないのに。 「腰が痛いんですか?」  連泊中の理人にそう質問したことがあったけれど、彼はにこりと笑って首を横に振った。  理人が宿を去ってから二日が経った、ある休日。  私はスマホも財布も持たず、アクセサリー類もすべて外し、旅館から少し離れた漁港に来ていた。  私には、週に何度かこうして身一つで散歩に出る習慣がある。  いつから癖付いたのかは覚えていないけれど、何にも縛られず自由になりたいという思いから、週に一度か二度くらい、身に付けるものを最小限にしてから、一人で一時間程度ぶらぶらと歩くことが私のライフスタイルには欠かせなかった。  漁港のボラードに腰掛け、ぼうっと海を眺める。  一年前にこの街で働きだした時はボラードという名前を知らずに、『港で足をかけるやつ』と呼んでいたっけ。  そんなことを思い出しながら一人でほくそ笑んでいた時だった。 「やぁ、偶然ですね!」  不意に背後から声をかけられた。反射的に振り向くと、そこには理人が立っていた。
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