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【第5話】
「あ、そうそう。この街のことをまだ何も知らないので、よかったらいろいろ教えてくれませんか?」
極めて自然な彼の言葉に救われ、気恥ずかしさが消し飛んだ。
「ええ、もちろん。寂れたところですけど、探そうと思えばそれなりに良いところもあるんですよ」
「それは楽しみだなぁ」
それから私と理人は、他愛もない話をたくさんした。
好きなテレビ番組や趣味、好きな食べ物、遊園地に行ったらまず何に乗るか、など。
本当に楽しい時間だったし、会話を重ねるごとにどんどん理人に惹かれていった。
私は、決して軽々しく人に好意を持つタイプではないのに。
会話の最中、いつの間にか敬語は消え去り、お互い気さくに話していることに気付いた時だった。
「そういえば、まだ名前も聞いてなかったね。聞いてもいい?」
「もちろん。伊藤君華っていうの。あなたは?」
「藤崎理人」
そう言ってから彼は、私の目を覗き込むようにしていた。
「どうしたの?」
「あ、ごめん。……あと、君華さんの電話番号も聞いていいかな」
「うん、大丈夫だよ」
それから私たちは、互いの電話番号を交換した。
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