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【第6話】
以降の三か月間、私と理人は週に一度は会うようになった。
互いに、付き合っているかどうかの明確な意思確認はなかったけれど、これはもう、彼氏と彼女という関係に間違いないと思っていた。
漁港で会話してから一か月が経った頃には一線を超え、それをきっかけに週に一度は彼の家に泊まるようになっていた。
抱かれるたびに、魚市場での労働の恩恵によってどんどん彼の体つきがたくましくなっていくのを感じた。
***
「奥さんの名前って、もしかして『みお』さん?」
追い討ちをかけるようで心苦しかったが、どうしても聞いておきたかったので、下を向いたまま黙り込んでいる理人に向かってそう告げた。
理人は勢いよく首を上げ、私の目を見た。
理人の顔には「どうしてそれを?」と書いてあるようだった。
彼の表情と会話するように、話を継いだ。「付き合い始めた直後に、一度だけね、私のことをそうやって呼んだんだ。名前の呼び間違いくらいで怒りたくなかったから、聞き流したんだけどね。昔の彼女の名前がポロっと出ちゃっただけかな、って」
焦りの表情こそ消えたものの、理人は相変わらず私を見据えたままだんまりを決め込んでいる。
「そうやって黙ってるってことは、やっぱり結婚してるんだね。――凄いよね! 週に何度も会って、毎週一回は理人の部屋へ泊りにも行ってたのに、まったく気づかなかったよ。演技が上手いんだね。顔だって良いんだし、俳優を目指せばいいんじゃないかな」
たっぷりと皮肉をまぶしたものの、言葉とは裏腹に、不思議と彼を憎む気持ちは微塵も芽生えなかった。惚れた弱みなのだろうか。
すると理人は、急に背筋を伸ばし、咳払いを一つした。「確認したいんだ。正直に答えて欲しい。――今でも僕のことは好きかい?」
意図が汲み取れず逡巡してしまったが、素直に本当のことを伝えることにした。
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