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【第7話】
「もちろん。さっきも言った通り、感情としては大好きだよ。本当は、これからも会いたいし、もし叶うなら――」結婚だってしたい。そう言いかけてやめた。
「それだけ聞ければ充分だよ」
いつも通りの落ち着いた態度だ。なんでこんなに冷静でいられるのだろう。本来ならばこれは、世間一般でいう修羅場というやつなのに。
「何が充分なのよ」少しだけ感情的になりながらそう言った。「言っておくけど、好きっていう思いが残っているからって、このまま付き合い続けるのは無理だからね。不倫は犯罪じゃないなんてよく言うけど、犯罪じゃなきゃ何をしてもいいっていうわけじゃないでしょ? 私はそういうのが嫌なの」
「知ってるよ」包み込むような笑顔で理人が言った。
「バカにしてるの?」
理人に対してこれまでまったく生まれてこなかった怒りが、ようやく芽吹き出した。なんなのだろう、人を食ったようなこの態度は。
思わず睨みつけてしまったが、彼は怒気を含んだ私の視線に臆することなく、真正面から目を合わせてくる。
普通はもう少し動揺するのではないだろうか。
その異質さに、今まで感じたことのない不気味さを覚えた。
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