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お昼には照明も落とされてしまう。ブラインド越しに冬の太陽光が差し込んできて、眠たくなるような陰影を作り出す。僕は弁当箱を開いた。唐揚げと卵焼き、ブロッコリー、ミニトマト。
よかった。普通だ。
僕はほっとして、唐揚げに箸を伸ばした。味はいいはずだ。麻理恵はメシウマだから。僕はゆっくりと唐揚げを味わった。ショウガとニンニクの風味がきいた唐揚げだ。
「うまい」
思わず声が出た。麻理恵は本当に料理が上手だ。弁当だからゆっくり静かに味わえる。とにかく普通に作ってくれと懇願した甲斐があった。前はいり卵とそぼろと細切りにしたハムで年輪のように幾重にも縁どった巨大なハートが描かれたそぼろ弁当だった。そぼろはおいしかったけど、食べた気がしなかった。キャラ弁はやめてくれ、メッセージをふりかけで書くのもやめてくれ、と何度も何度も頼んで、やっと普通の弁当にありつくことができた。
麻理恵、やればできるじゃないか。
ブーーーン、とパソコンの駆動音が聞こえる。この駆動音はいつだってオフィスに響いているはずなのに、誰も気づかない。かわいそうに、オマエもちゃんと働いているのにな、とパソコンをいたわってやりたくなる。僕は弁当をたいらげた後、目を閉じて椅子の上でグッと背筋を伸ばした。静かだ。ずっと静けさを求めていた。お昼くらいは静かに過ごしたいと、あちこちの定食屋や喫茶店を歩き回った。灯台下暗しというやつだな。ここが一番静かで落ち着く。
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