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気がついたら外が明るい。
朝?
「智里、気がついたのね。」
私の握手をしっかりと握る母。
「事故から3週間も目が覚めなかったのよ。心配したんだから。」
???
「私、事故から3週間目が覚めなかったの?」
あ、声が出る、智里はほっとした。
「1週間ぐらい前だったかな、声を掛けたら反応があって少し目が空いたからほっとしたのに、、また眠っちゃって。ずっとここで待っていたのよ」
そう言って母が指さした先には泊まり込んだらしい簡易ベッドがあった。
「は、春馬は…」
「…」
「春馬がね、昨日の夜に来て、急に『結婚できない』って言ったの。」
そう言うと昨日の部屋を出ていく春馬の様子を思い出してまた涙がぶわっとあふれた。
「春馬に話がしたいって、連絡してほしい。ちゃんと話がしたいって。」
母親が困った顔をしているのを見ても、そのお願いをするのをやめることはできない。前日まで毎晩楽しそうにしていたはずがどうして急に結婚できないと言い出したのか、それを聞かなきゃ…その一心だった。
「あのね、智里。落ち着いて聞いてね。」
母親の話は智里には信じることができない話だった。
あの事故の時、1人だけ死者が出た、それが春馬だったというのだ。
春馬は智里を守るようにとっさにハンドルを切り、智里に覆いかぶさっていたという。
そのため、ひどい事故の状況の割には智里のけがはそこまでひどくなかったということだった。智里を守ろうと春馬は必死だったんだろう、と警察から聞かされたと母親から聞かされ、智里は一人混乱した。
この1週間、毎日夜になると会いに来てくれたのはぜったいに春馬だった。
それが3週間前に亡くなっていただなんて信じることはできない。
信じられないといった表情の智里に静かに母親は新聞を見せる、そこには被害者の名前として春馬の名前が載っていた。
死が2人を分かつまで、真心を尽くした。こんな私たちも夫婦だと言ってもいいですか。
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