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パコの部屋の窓の防犯用の鉄格子。カエルはその柵の一本にしがみつくように張りついていた。
パコが部屋の入り口で立ち尽くしていると、カエルが鉄格子から開け放したままの窓の隙間を通り抜け、窓辺に置いてあった鉢植えの隣に着地する。風が吹き、揺らめくカーテンから漏れた日光を受け、カエルの肌の色がより鮮やかになる。
パコがカエルを追い払うことに二の足を踏んだのは、一緒に住んでいる祖母からそれが毒のある種類だと教わっていたからだ。鼻先から尻にかけてが炎のように赤い体色なのに対して、手足は丈の長い手袋と靴下でも身に着けているかのように深い群青色に染まっている。
パコは周囲を見渡した。カエルを追い払うのに使えそうな棒か何かがないか探したのだ。ところが近くに手頃なものは見つからず、かといって部屋を出ているあいだに物陰に隠れられるのも厄介だった。
「その怪我、どうしたんだ?」
きょろきょろとするパコに、窓のほうからそう声がかけられる。ところが部屋にはパコしかいない。ここは二階だが、それこそカエルのように壁の外に誰かが張りついているのだろうか。
パコは喉を小刻みに膨らましたりへこましたりしている毒ガエルを遠巻きにしながら窓の外の様子を窺い、それから半円を描くように反対側へまわると、そちらからも誰かがいないかを確認した。だが侵入者などおらず、ただ細い路地に家が建ち並ぶ、いつもの近所の光景しか見えなかった。
「怪我の具合がひどくなけりゃいいんだが」
ふたたびした声にパコは身をかたくした。先ほどよりも近くで聞こえた。
「水をもらえないか。喉じゃなくて肌が乾いちまってな。霧吹きでもありゃ言うことなしだ」
心臓が跳ね上がるのを感じながらパコは周囲を見渡したが、やはり部屋の中には誰もいない。いや、例外はある。パコは窓辺を、正確にはそこに置かれた鉢植えの傍らを見た。
「ようやく気づいてくれたな、若いの。なら早速もてなしてもらおうじゃないか」
パコは腰を抜かした。床に座りこむと、先ほどまで見おろしていた毒ガエルと視線が同じ高さになった。
カエルが前脚の片方を小さく前に出すので、パコは思わず尻で床をこするように後ろへとさがった。背中が本棚にぶつかるほど彼を後退させたのは、カエルが毒を持つ種類だったからではなく、得体がまったく知れなかったからだった。
「きみが喋ったの?」ひきつった声でパコは訊ねた。
「ほかに誰がいる? それともおまえさんは鏡に映った自分を他人だとでも思ってるのか?」
パコが首を横に振る様子を、毒ガエルが黒真珠のような瞳で見つめてくる。
このカエルが喋っているのはもはや疑いようがなかった。もっともそれは、自分の頭がおかしくなったのではないという前提での話だが、十一歳のパコはひとまずその事実を受け入れることにした。
「だったら俺の頼みを聞いてくれるな? ほら、急げ。俺は見た目以上の年寄りだし、そうじゃなくても俺たちの寿命は短いんだ」
パコは急かされるままに立ち上がると、とって返した台所で棚をひっかきまわしはじめた。
これが少年パコと、毒ガエルとの出会いだった。
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