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苦手だった人
「三船さん、ちょっといい?」
そう呼ばれて目線を上げると同期の西野君だった。
「この資料なんだけど…」
私は真剣に話を聞き頷く、西野君の質問した資料は私の部署にとっても重要な案件なのだ。
「それは先日の商談の議事録で確認したので…えっと、この資料の中にあるはず。ほらほらこれだよ」
「そういうことか。なるほど。助かったよ」
西野君は心底安心した表情を浮かべ、私もほっとした。
そうしてふと西野君と自然な会話が出来たことに気づく。
新卒で入社した同期は15人いるのだけど、西野君はその中でも一番の出世頭で、人望もあり、いわゆるキラキラ系の人種で、新人の頃から近寄りがたい存在だったのだ。
体育会系のコミュ力高い人やベンチャー企業にインターンに行っていた優秀な人などが多く、内定者の飲み会でもほとんど人と話せず、この会社で上手くやっていけるか心配だった時に、特に自分が今まで関わってきたタイプの人とは違うなと感じたのが西野君だった。
話しかけても緊張して上手く答えられなかった。
あれから10年近く経ち、彼は活躍しているが年齢と共に落ち着き、私もそれなりに仕事をこなし自信がついたからこうして自然な同期として関係を築けたのだろうと感じた。
「あっ…今プライベートの話してもいい?」
西野君が急に私の耳元で話をするからドキリとした。
男性用の香水か整髪料の匂いが漂う。
「同期の山田が転職するらしくて…久しぶりにみんなで集まろうって」
心の中でなんだそんなことかと思う。
転職や結婚出産で辞めたり、支社に転勤になったりして同期も今は半数くらいだ。
「いいね」
私は微笑んで言う。
「じゃあまた連絡するから」
西野君はそう言うと爽やかに去っていく。
身長は180cmほどあり、30歳を過ぎても体型は変わらずすらりとしている。
どこに居ても彼の姿は目立つ。
あまりに完璧で優しい彼は、どこか裏があるのでは?と思って苦手だったけど、そんな風に考えていたのは自分が卑屈だったからなのかもしれない。
素直な気持ちで人と接さなければ…。
そう改めて思った。
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