西野君の指

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西野君の指

西野君がセッティングしてくれた同期の飲み会の会場は会社の最寄り駅の半地下の個室居酒屋だった。 ここでなら会社の話も気兼ねなく言えるだろうとの配慮だろう。 「今日は山田の壮行会だから。最後に山田の一言もあるからな」 そうイタズラに笑った西野君はそう言って乾杯をした。 場の雰囲気もどっと和み、何をさせても完璧な人だと思う。 同期とは言えど、なかなか集まる機会は減ったし、年数を重ねれば重ねるほどプライベートの変化や社内の評価の差でなんとなく気まずさがあったが、西野くんが居るとそういう気持ちが吹き飛ぶ。 新入社員の頃のような朗らかな気持ちでみんなと接することができる。 転職する山田君とは仕事上ほとんど接点はなかったけど、人あたりの良い人だとずっと思っていた。寂しい気もするが晴れ晴れとした表情から前向きな転職なのだと察する。 それよりも何の変化もない、平社員の自分の身を案じる。 「三船さんは最近どう?」 そんな漠然とした問いかけが何を指すのか分かり兼ねる。15人いた同期は10人まで減った。特に女性社員は結婚で辞職したり、育休中だったりでかなり数が減った。この質問は結婚などの恋愛事情について含んでいるのかもしれない。 「俺も気になってた。最近の三船さん雰囲気変わったよね。何かあった?」 西野君が会話に入ってきた。 「西野君こそー最近おめでたいんでしょ?」 同期の女性社員の中でも明るい快活な1人がテンション高く会話に入ってくる。 「なんだよ、噂になってるのか。西野報告しなよ」 西野君を冷やかすように囃し立てる。 「あー実は俺婚約したんだ」 西野君は冗談っぽく左の薬指をこちらに見せる。もちろんそこにはまだ指輪がない。 その指は長くごつごつしていて、とても男性っぽく私はそれに見入ってしまった。 私とは違ってこんな陽な人間がいつまでも1人でいることはないだろうな。 なんとなく投げやりな気持ちが増して、ついお酒のペースが早くなる。
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