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国王は、分かっていたのだ。自分たちが魔王討伐に赴けば、決して生きて帰ることはできないと。
それでも、行かせた。修行を積んだ魔道士と、強力な治癒者と、勇者を冠した凡人を。
「──全部、このためだったのかよ!」
グリルは腹の底から叫んだ。涙が溢れるのも気にかけず、王の面前での非礼など忘れ、感情をぶつけた。
自分たちが死地に赴いたのが、幾つもの危険を乗り越えて魔王の城に到達したのが、全てこの男の欲望を叶えるためだったなんて。
王政を揺るがしかねない力を持つ2人を、魔王退治の途中で死なせることが目的だったなんて。
「ふざけんな──この命は、お前に捧げる捨て駒じゃねえ。俺たちだけのものだ!あの2人は死なせねぇ!」
宣戦布告の言葉に構えていた兵たちが一斉に動き出し、銀の槍の切っ先が何十本も向けられる。浴びるほどの血を一身に吸い続けてきた凶器が、グリルの喉元を掠めていた。
それでも構うものかと、グリルは歯を食いしばる。数歩後ずさって兵を睨みつけた。牽制するように両手を前へと突き出し、目を閉じて言葉を吐き出す。
瞼の裏に浮かぶのは、共に旅をしたカリグラとレイラの姿。
口では悪く言いつつも、寝食を共にし、一緒に歩き、手を取り合って支え合った仲間。
「炎の神、ペリドゥネシスよ──」
──絶対に、死なせてなるものか。
「──今この手に炎を宿し、天に噴き上がれ!」
絶叫とともに、突如、轟音が轟いた。
「熱い、熱いぃ!」
兵士の苦しげな声が聞こえる。焼けるような熱にグリルが目を開くと、そこには、燃え盛る炎が渦を巻いていた。
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