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うっそうとした木々が生い茂る深い森を抜け、弱小魔物を何体かのしながら魔王の領域に足を踏み入れたときには、既に夕暮れになっていた。
「そろそろ休みましょう」
大きく伸びをするレイラの言葉に、グリルは思わず反対してしまう。
「はあ⁉できるわけねえだろ、こんなに魔王城が近い場所で。今すぐに城の中に突入して、とっとと奴の首をぶった切って国へ持ち帰ろうぜ」
だが、その提案はばっさりと切り捨てられる。
「戦闘においてまったく活躍しないダメ勇者が、何を言ってるのじゃ。貴様の意見は聞いとらんわ」
「そうよ、一番のお荷物が喋らないで」
「だいたい、貴様は今日の内に、何度デーモンにやられた?3回くらい追い回されとったじゃろ。その手の傷も、連中に攻撃されたものじゃろうし」
「本当に弱いわよね。なんなら数日前、スライムにも負けてなかった?」
「あー、分かってる分かってる分かってますよー!」
立て続けの批判に、グリルは耳をふさぐ。
そう、分かっているのだ。自分が勇者としては最底辺の雑魚で、何の力もない最弱な人間だということは。
***
3人で手分けして集めた薪は、そのどれもが薄っすらと湿っていた。
「魔王の領域にある木々は、そのほとんどが僅かな毒を含んでいると言われている。先ほど、儂の力でここら一帯の毒は浄化したが、この水分まではな」
首を振ったカリグラの言葉を引き継ぐようにして、レイラが言う。
「ていうか、グリル。なんであんたが集めてきた薪が一番湿ってんのよ。禄に魔法も使えない勇者なんだから、少しくらいは役に立って。ほら、火」
「あ、ああ」
かろうじて差し出された薪に、グリルはそっと触れる。
まだ、詠唱の呪文すらも覚えきれていない。
「ほ、炎の神・・・・・・ペリドゥシス、じゃない、ペリ──ペリドネスよ、今、この右手に、炎を燃やし──宿し、えっと、天に噴け・・・・・・噴き上がれ」
弱々しい声で口にした詠唱は、間違いだらけだ。当然、指の先ほどの炎も起こらない。
レイラの盛大なため息を聞きながら、グリルは身を縮こめていた。
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