勇者

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 グリルの生まれた国では、絶対王政が基本であった。国王の言うことには必ず従わなくてはならず、逆らえば処刑台行きだ。  どこの国も基本はそうであるが、中でもグリルの国はそれが甚だしかった。  特に先代の国王が病死し、その息子が王として国政を担うようになってからは、国民が強いられた労はそれまでの比ではなかった。  まともに納めれば、家族を養うことすらできなくなるほどの高い税金。  男女が結婚する前に行わなければならない、複雑な儀式の数々。  子供のいない夫婦は、城に使えなければならないという理不尽なルール。  ひとつでも決まり事を破れば、その者の命はない。民衆の全員が呼び集められた広場の真ん中で、火炙りだ。  そんな国に、グリルは生まれ育った。たいした魔力も持たず、腕力も頭脳もなく、ただ日々を気ままに生きたいだけの少年だった。  それが、いつしか魔王を討伐しに行く勇者に任命されていた。  あれよあれよという間に王宮に呼び出され、王族や大臣の見守る前で魔方陣の上に立たされ、決まった呪文を唱えさせられた。  瞬時にして四方を炎が包み、「炎の力を女神から授かったぞ!」と周囲が騒ぐ中、グリルは一人呆然としていた。  状況も把握できないままに、数日後、パーティを組む相手として魔道士のカリグラと治癒者(ヒーラー)のレイラを紹介された。    カリグラは、30年以上山にこもって魔術を鍛えていた一流の魔術使いだった。レイラは王族に次ぐ富豪の出身で、幼少の頃から治癒術に限らず体術から権謀術数、あらゆることを身につけていた。  そんな「力ある者」の間に、凡人であるグリルが入る余地はなかった。  敵と対面しても、2人が先に倒して経験値を得る。  街へ行っても、彼らのほうが先に言語や文化を習得して人々と言葉をかわし、条件のいい安宿を見つける。  明日だってそうだ。  恐らく距離からすると、明朝には魔王城に到着するだろう。足止めのための魔王軍幹部も、その先にいる魔王も、彼らが倒してしまうのだ。  自分は、なんのために勇者になったのだろう。どうして、ここにいるのだろう。  焚き火の火すらも起こせない弱小な自分が、なぜ。
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