目的地

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 緊張と不安で眠れない夜を過ごした、その翌朝。ついに、一行は魔王城の前へ到着した。 「おお、ここが魔王城か」 「噂には聞いていたけど・・・・・・やっぱり、巨大ね」  目前にそびえ立つ巨城を見上げ、カリグラとレイラが感嘆の声を漏らす。だが、グリルは今にも襲われるのではないかと、気が気でなかった。  真っ黒な夜空の色に塗りつぶされた鉄製の壁が、見上げるほどに高く続いている。細い鉄塔がいくつも連なっていて、まるで逆さになった氷柱(つらら)が空へと伸びているかのようだ。  小さな窓からは明かりひとつ見えず、中の様子は確認できない。グリルたちの背後には、今しがた通ってきたばかりの薄暗い森があった。 「気をつけていかなきゃね。こんな木偶の坊さんはおいて」 「そうじゃな。ここまで使い物にならん勇者は、初めてじゃ」  2人の軽蔑するような視線を受け、グリルはますます下を向く。  だが、怖がってばかりもいられないのだ。これから、魔王の住む敵の根城へ足を踏み入れるのだから。  カリグラが背の高い門に手をかけ、詠唱の言葉を唱える。たちまち、白光が轟き、強い魔力が門扉を吹き飛ばした。  盛大な音を立てて鉄の扉が転がると同時に、城全体を揺さぶるほどの大音量で鐘の音が響き渡った。敵の侵入を知らせる警鐘だろうか。  鼓膜が震え、安物の鎧で覆われた皮膚までもが、揺すられているようだ。  だというのに、レイラとカリグラは動揺したようすもなく、ただ静かに敵を待っていた。その背中には、各々の覚悟が背負われている。 「行くぞ、グリル」  2人の言葉が重なった。 「・・・・・・ああ」  グリルは手を強く握りしめ、一度も鞘から抜いたことのない剣の柄に、手をかけた。  もう、後戻りはできない。冠した勇者の名に意味を持たせる時が来た。  魔王もいない世界を、自分たちが作るのだ。
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