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「何を言ってるの!そんなわけないわ、国の飢饉も日照りも犯罪者の増加も、全部あんたらが・・・・・・」
レイラが、魔王を鋭く睨みつけた。だが怯むこともなく、魔王は続ける。
「勇者アーキスの名を聞いたことはないか?魔王を斃した偉大なる人物として、人間界ではもてはやされているそうだが」
その言葉に、レイラとカリグラが息を呑む。グリルも、思わず押し黙った。
海の向こうに或る大陸の中の一国、そこに住まうアーキスという青年が武勲をたてたということを、耳にしたことがあったからだ。
詳細こそ聞き流してはいたものの、その手柄とは紛れもなく魔王討伐に違いない──この魔王の話が、正しければだが。
「吾は、先代の魔王・サイロ殿の後継ぎだ。しかし、人間界を支配下に置き、世に災いをもたらすなどすれば、たちまち数多の勇者がこの城に踏み入ってこよう。そして、多くの大事な部下が失われる。そんな悲劇は避けたい」
巨悪の親分らしからぬ言葉に、3人は唇を噛み、逡巡した。
幼い頃から、魔王というのは、人間に災いをもたらす存在だと教えられてきた。天候の不順を呼び寄せ、嵐を起こし、人の心に悪いものを植えつける大いなる敵。
彼らの存在なしにはこの世にある如何なる極悪非道も存在し得ないと言われるほどの、全ての邪心の根源。
それが、既に討伐されていた。
しかも代替わりした2代目が、「先代のように人間に危害を加えるつもりはない」と言うのだ。
「嘘だ、そんなわけ──」
グリルが言い終わるよりはやく、カリグラの放った雷の槍が、魔王の頭部めがけて飛んだ。
白光が閃き、朝靄色の矛先が魔王の眼球に突き刺さる。
「たとえ、お主の言うことが正しいのだとしても──魔王を、討伐する。それが、儂らに与えられた命じゃ!」
カリグラが叫ぶ。横では、レイラが足を肩幅に開いて構えていた。
グリルも、戦いを放棄するつもりはなかった。ここまで来て、後には引けない。
どす黒い血を流し、魔王はよろめいた。その背後には、ずらりと魔物たちが並んでいる。その誰もが、牙をむき出し、各々の武器に手をかけている。
「・・・・・・そうか。それが貴様らの答えか」
声に僅かばかりの哀愁を滲ませ、魔王がささやいた。
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