第6章:決戦

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降りしきる雪が、僕らの足元を埋めていく。 時折顔に当たっては、全身を凍らせるような寒さを残す。 山頂まではひたすら上り坂。転げないように、手を引いて前を歩く。 足場も悪く、しっかり地面を踏みしめることができない。 まだ小さいルルにとっては、酷く歩きにくいだろう。 「…大丈夫?」 繋いだ手から震えが伝わってきて、寒いのか怖いのか、心配になった。 おんぶしてあげようにも、いつ衛兵に見つかるかわからないから、 することができない。 「もう少し頑張ろう。登ってたら、その内暖かくなるから」 出発前にしたお願いに納得がいかないのか、膨れっ面のルル。 優しく声をかけても、いつもの笑顔は返ってこない。 大事なことだから話したけれど、10歳の妹に理解してもらうには、 少し難しいお願いだった。 「…わかってるよ、ルル。僕がいなくなるのが怖いんだよね。  守ってもらってばっかりなのが嫌なんだよね。ちゃんと、わかってる」 いくら僕がルルの幸せを願ったって、 同じくらいルルも僕の幸せを願っている。 2人一緒じゃなきゃ、幸せじゃない。それもわかってる。 これは僕が幼い。 「大丈夫。僕だってそう簡単に死なないさ。  これでもお兄ちゃん、強いんだからな?」 自信満々に胸を張ると、クスリと微笑むルル。 「それに、怪我をしたってルルが治してくれるんだろ?」 勿論!と意気込んで、僕の手を強く握る。 さっきまで重かった足取りが、嘘のように軽くなる。 ー僕だって、生きてルルと集落に行きたい。行かなきゃならない。 何のために衛兵を辞めた?何のために国を出た? 何のために人間を殺した? 1度死んだ程度じゃ報われないくらい、大きな意味がこの旅にはある。 そんなすぐに、終わらせてたまるか。 燃える闘志を胸に、いざ足を踏み出した時。 目の前を1本の矢が通った。 反射的に姿勢を下げる。 「見つけました!ルイ・ヴェーデンです!」 矢を放ったと思われる兵士が、大声で他の衛兵に知らせる。 山の中間地点。思ったより早かったな。 矢が来た方を見ると、大勢の赤い軍服が山を目掛けて走ってくる。 大丈夫、まだルルの存在には気づいていない。 僕達がいる場所に来るまで、10分はかかる。 「ルル、先にー」 登っててと言おうとすると、僕の手を掴んで離さない。 私も戦うと、決意の眼差しを向ける。 ルルを危険な目に合わせたくはない。 でも、ルルが居れば怪我を治してもらえる。 「…わかった。でも、次僕が先に行けって言ったら、行くんだよ」 衛兵の足音が地面を伝って響いてくる。 ルルを自分の背後に下がらせ、銃を構える。 後ろに下がって距離を取りながら、近づいてくる衛兵に狙いを定める。 標的の額を撃ち抜いていく。ドミノのように重なっていく死体。 背中越しに、ルルが息を呑む音が聞こえた。 弾がきれたところで、腰にさしてある剣を引き抜く。 血しぶきが舞う中、何の躊躇いもなく進んでいく。 誰1人として、僕の後ろへは行かせない。 「ーっ!」 敵の矢が左腕に刺さる。一瞬の激痛が全身を走った。 バランスを崩してふらついたとき、背後から水をかけられる。 「ルル!」 振り返ると、僕に手のひらを向けていた。その手には水滴がついている。 能力を使ったのだ。 「なんだあれは!?」 「人間、、なのか?」 まずい、ルルの姿が敵に見られてしまった。 このままここに居たら、ルルまで殺される。 援護しながらの戦闘は容易じゃない。敵の数も多い。 「ルル、道なりにそって山頂まで登れ。絶対に振り返るなよ」 背中越しに声をかけるが、一向に走り出そうとしない。 「早く行け!!」 初めて聞いた兄の怒声に怖気づき、反射的に走り出す。 ルルの足音が聞こえなくなって、敵に刃を向ける。 敵がざわついている間に、左腕の流血が止まっていた。 痛みが引いていく感覚がする。 真赤に染まった世界を、剣1本で切り開いていく。 この奥に進めば、もっと強い敵がいる。きっとそこに、ノアもいる。 切ってもキリが無いほどいた前衛隊は、ルルのおかげもあって、 残り数える程度になった。 視界の端に、ノアの姿がぼんやりと見えた。 その瞬間、大きな爆発音がして、目の前が真っ白になった。 「ゴホ、ゴホ!」 まずい、発煙弾だ。何も見えない。気配も感じられない。 どこから――どこから来る! 「久しぶりだな、ルイ」 声が聞こえた時には、右腕に刃が刺さっていた。 「ーこの腕、切り落としてやる」 「ー痛いよ、ノア」  
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