第1章:ルル

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第1章:ルル

賑やかで活気のある国、ユリオス王国。 もうじきクリスマスだからか、早朝5時にして街に明かりがついている。 この時期になるとどの店も忙しくなるので、早朝からの準備がかかせない。 ベッド横の小さな窓から、店の明かりをぼうっと見つめていると、 横でモゾモゾと動く感覚がした。 「もう起きちゃったのか?ルル。」 大きな欠伸をして、毛布の隙間からスカイブルーの瞳をのぞかせる。 真っ白な髪が寝癖でところどころ跳ねている。 可愛いなと、思わず頬が緩む。 「まだ寝てていいよ。眠いだろう」 優しく声をかけながらベッドを降りて、国のバッジがついた軍服に袖を 通す。その姿を見て察したのか、ルルも慌ててベッドを降りる。 小さな足をパタパタと鳴らしながら、僕の後をついてくる。 「僕はもう仕事に行かなくちゃいけないから、  良い子にして待ってるんだよ。」 そう言うと、決まって眉毛を下げて悲しそうな表情をする。 行かないでと、甘えるように僕の手を握る小さな手。 その手をギュッと握り返すと、諦めがついたのかそっと離れていく。 後ろ髪を引かれる思いでドアを閉めた。 この国を守る衛兵団、キメラーズ。 そこで任務をこなすのが僕の仕事だ。 ユリオス王国は平和で有名だが、犯罪が起こらないというわけでは 決してない。この国の衛兵がとても強いのだ。 だから国民は衛兵をこれでもかと敬うし、絶大な信頼を得ている。 つまりこの国で生きていく上で、衛兵であるというのは、 とても名高き名誉なのだ。 でも僕は、衛兵が嫌いだ。 この国も、民も王も全部嫌いだ。 「ルイ!おはよう!」 同期で、同じ隊のノアが声をかけてくる。 「あぁ、おはよう」 「今日の任務聞いたか?めっちゃ金になりそうだったぞ!」 …こういうところ。物事を常に金で見ているところが嫌なんだ。 「どんな内容だったんだ?」 貼り付いた笑顔を向ける。 「エルフの空き家捜索だよ。ほら、この前先輩たちが処分したとこの」 「ー!」 エルフの空き家捜索とは、殺したエルフの家を捜索して、 エルフの羽や髪を押収するのだ。 それらは各国でとても高く売れるので、おおかた貿易にでも使うのだろう。 「なんでそれを僕らがやるんだ?エルフ任務は隊長方がやるものだろう」 「そうなんだけどさ、俺らは副隊長候補だろ?  来年になったらエルフ任務に同行するかもしれないから、予習だって。」 ウキウキする同期をよそに、僕は気分が悪かった。 エルフ任務は隊長がやるから、副隊長という座で修めようと思ったのに、 めんどくさいことになった… 「もう集合時間になる。急ごう」
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