第7章:守りたかったもの

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第7章:守りたかったもの

―――暗い。何も見えない、感じない。 時間の流れすらないような空間。誰かがいる気配はない。 さっきまであった身体中を刺すような痛みも、ない。 まるで、夢の中にいるようだ。 …ここは、どこだ? 『ママ、お腹空いた…』 ルルの声だ。聞いたことがないのに、なぜかそう思った。 今より背も小さくて、5歳くらいだろうか…? 『こら、喋らないの。ご近所さんに聞かれたらどうするの』 キッチンで料理をする懐かしい背中。母さんか…? 『、でも』 『何度も言ってるでしょ。  あなたの存在は、誰にも知られてはいけないの。  バレたら私達家族は殺される。』 『…ー』 『お兄ちゃんも、いなくなっちゃうのよ』 その一言に、堪えていた涙が頬を伝う。 『迷惑かけたくなかったら、黙ってなさい』 『うん…』 ―――知らなかった。 ずっと、生まれつき口が利けないのだと思っていた。 実際ルルは、僕の前で一言も声を発さなかった。 僕に迷惑をかけたくないから、一緒にいたいから、黙っていた。何年も。 そんなことも知らずに僕は、今まで一緒に過ごしていたのか。 そう思うと堪えきれなくなって、朧気なルルの背中に手を伸ばす。 確かに触れているのに、体温を感じない。 最期に思い出すのが、こんな走馬灯だなんて… 謝らなければいけない。 生まれつきだと思い込んでいたことを。 伝えなければいけない。 君はもう、自由だということを。  
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