第1章:ルル

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隊長室を出て、足早に基地を後にした。 去り際にノアから飲み会に誘われたが断った。 毎度のことなんだから、アイツも早く諦めればいいものを。 帰りはすっかり日が落ちてしまっていた。 今日は胸糞悪い任務だったから、余計に疲れた。 街はクリスマスムードで輝いているのに、対照的だなと思う。 ふと、アクセサリー屋のショーケースに目が留まる。 白髪に合いそうな、可愛い花柄の髪留めが売られていた。 そういえば、今年のクリスマスプレゼントをまだ買っていなかった。 給料入ったし、買うなら今だな… 「ルルによく似合いそうだ。」 早速店内に入り、プレゼントを購入する。 薄い桃色の包装をしてもらって、ルルが待つ家へと急ぐ。 クリスマスには毎年プレゼントをあげるのだが、ここ最近、ルルは大きく 成長した。体もそうだが、雰囲気が前より少し、大人っぽくなった。 と言ってもまだ、ほんの10歳なのだが。 今までのように、ぬいぐるみやケーキでは年に合わないと思って、悩んでいた のだ。 昔は、両親がプレゼントをくれていた。 ルルにその頃の記憶があるのかはわからないが、家族で過ごしたクリスマスは、もう4年前のことになる。両親は4年前、突然姿を消した。 金庫の鍵を置いて、まだ幼い僕たちを残して出て行った。 金庫には、兄妹二人で2年は生活できそうな額のお金が入っていた。 丁度2年後には僕は16歳になり、衛兵に入隊できる年齢だった。 それから今まで、僕たちは衛兵の給料で生活してきた。 両親は僕たちを捨てた。それは経済的な理由ではない。 ルルがエルフだからだ。 本来、エルフを産んだら汚らわしいモノとしてすぐに国に報告し、 殺さなければいけない。ルルにエルフの特徴が見られるようになったのは、 4歳ぐらいだった。国に報告できるほどの勇気が両親にはなく、かといって隠し通して生きるほどリスクを負いたくなかったから、金だけ残して消えたのだろう。生きてるのか死んでるのかさえ、わからない。 この残酷な世界に、無責任に僕たちを置いていったこと。 僕は心底恨んでいる。 「ただいま。ルル」 ドアを開けると、とびきりの笑顔で飛びついてくる。 僕のお腹に頭をぐりぐり押し付けて、撫でてと催促してくる。 こんなにも可愛い子を、世界は殺そうとする。 たった一つの、くだらない言い伝えのせいで。 「プレゼントがあるんだ。見たいか?」 青い瞳を輝かせながらコクコクと頷く。 ジャケットのポケットから先ほどの包装を取り出す。 早く中身が見たいのか、ソワソワしながら待つルル。 丁寧に包装を解き、袋から青い花柄の髪留めを出す。 髪を耳にかけてやり、その上から髪留めで留めると、 本当によく似合っていた。 白髪に青色がよく映えている。 小さな手鏡で写してやると、髪留めをぺたぺた触って見惚れたような顔を している。気に入ったみたいだ。 夕食を食べ終え、風呂から上がると、隣ですでに眠そうなルル。 起こさないよう慎重にベッドまで運ぶ。 余程プレゼントが嬉しかったのか、眠ったまま片手に握って離さない。 少し横になろうと思いベッドに腰かけると、何かカサっという音がした。 それは任務中に見つけた古い地図だった。 慌ててポケットにしまったのを、すっかり忘れていたのだ。 本棚から一番古い図法の本を取り出し、地図に合うものを調べる。 この地図になんの意味があるのか、わからずに持ち帰ってしまった。 本来、エルフの空き家から無許可で何かを持ち出すことは、固く禁じられている。持ち帰ってしまった以上、これは隠し通さなければならない。 これに価値があるのかはわからないが、、 ページをめくり進めると、地図によく似た図法が書かれていた。 よく見ると、地図の上の方に×印がされている。 周辺の国が描かれていたであろう部分が、引きちぎられたように破れていて、 肝心の場所を確認できない。 何者かが、残りの地図を持っているのだろうか。 ほかのエルフの空き家にも、同じようなものはあるのか。 「…ダメだ。わからないことが多すぎる。」 考えることをやめ、開いていた本を閉じ、地図を金庫に入れた。 窓の外の景色が、薄く明かりを帯び始めたので、ルルの隣で眠りについた。
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