第2章:幻の村

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第2章:幻の村

翌日、基地の講堂で集会が行われた。 集会が行われる時は、決まって大きな任務の話だ。 いつもより朝早くに家を出なければいけなかったので、 ルルにいってきますを言えなかった。 今頃、泣いていなければいいが… それにしても、昨日遅くまであの地図のことで起きていたから、 眠気が限界にきている。 もうすぐ集会が始まるって言うのに、あくびなんかしたら即クビだ。 講堂に集まったのは、衛兵200人と各隊長4人。 1ミリのずれなく、均等な間隔で整列している。 講堂内は、緊迫した空気に包まれていた。 隣に立つノアは、相変わらず緊張感のない表情をしていた。 壇上の明かりがつき、全兵204人の拍手が沸き起こる。 キメラーズ最高司令官の登場で、再び静寂に戻る。 「本日集まってもらったのは、極秘任務決行についてである。  これより、国王様からお話がある。全員、心して聞け!」 周りが少しざわついた。当たり前だ。 国王が集会に顔を出すなんて、これまでに一度もなかったのだから。 それほど重大な任務であると言える。 緊迫した空気がさらに張り詰めた気がした。 「これから話すことは、今講堂内にいる者のみ知ることだ。  外部に情報を漏らした者は死刑と処す。」 その場にいる全員が息を呑んだ。 「今から5年前からこの計画は始まっていた。  我が国が誇る優秀な考古学者達が、はるか北の山で大量のエルフの骨を発見     した。研究の結果から、その場所は約500万年前のエルフの集落だったこ   とがわかった。」 「ー!?」 驚きのあまり目を丸くする。 エルフだけの集落なんて、聞いたことがない。 「話はここからだ、静粛に。  他の場所でも、何か所か同じような集落の跡地が見つかった。  憶測だが、今もどこかにエルフの集落があると我々は踏んでいる。  そこで、今回の任務についてだ。」 ダン!と国王が教壇を叩く。 「我々と共に、集落捜索任務に同行する者を募集する!  定員50名!明後日までに署名したものを城に提出しろ!以上!」 再び拍手につつまれる中、僕は冷静を保てずにいた。 講堂を出ると多くの衛兵が、さっきの話で盛り上がっていた。 署名用紙が配られ、すでに名前を書いている者もいた。 当の僕はそれどころではなく、エルフの集落があるかもしれないということに、酷く喜びを感じていた。 もしそれが本当なら、ルルをその場所に預けることができるかもしれない。 この国で身を隠して生きるよりも安全だ。 「…イ、ルイ!聞いてんのか?」 すぐ隣で呼ぶノアの声に気づかなかった。 「あ、悪い。何だ?」 「これ、署名しようぜ」 ノアは任務に同行する気でいた。 しかし、僕は同行するわけにはいかない。 長期任務になるし、その間ルルを家に一人にできない。 「…いや、僕はいいよ。」 「?なんでだよ」 勿論、ノアにルルの存在は話していない。 「あー…病気の妹がいるんだ。長期任務は厳しい」 「そうなのか!?なんだ、早く言えよ…」 「悪いな。」 「仕方ないことだろ。俺は行くけどな!」 何の疑いもなく、すんなりとノアは納得した。 城に署名を出しに行くと、基地を出ていくノアの後ろ姿に、 少し心が痛んだ。      
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