第3章:始まり

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第3章:始まり

破れた地図、ランプ、少しのへそくりに毛布を3枚。 持ち物はたったのこれだけだ。 食料は山で動物を狩れば良いし、飲み物は川の水がある。 衛兵訓練で火起こしのやり方も学んだし、マッチはいらない。 あまり多くなっても、ルルはまだ小さいから持てないし、 急な戦闘に備えて荷物は少ない方が良い。 鞄を右肩にかけたとき、小さな手が僕の袖を掴んだ。 いつも青く輝いている瞳が、雲がかかったように濁っている。 長く尖った耳は少し垂れ下がっていた。 これは、不安になっているときの現れだ。 「もう痛くないって言ったろ?大丈夫だよ」 家に帰って来たとき、右腕がない姿を見て1時間は泣いていた。 少し落ち着いたけど、今もまだグズっている。 右肩を包帯でグルグル巻きにして血痕だらけで帰ってきたら、 そりゃびっくりするだろう。 ルルを驚かせてしまうということに頭が回らなかった自分を責める。 「ルル、今から大事なことを言うから、よく聞いて。」 涙を人差し指で拭って、しっかり目を合わせる。 「外に出たら、絶対に帽子を脱がないで。約束できる?」 ピンク色の毛糸の帽子を耳までしっかり被って、コクコクと頷く。 「よし、じゃあ行こうか!」 夜風の音だけが響く、誰もいない深夜。 僕達はこの街を出た。 外は一面銀世界が広がっていて、人気などあるはずもない。 この世界に僕達2人だけという不思議な感覚がする。 ルルにとっては4年ぶりの外出。 街灯が無くても、人の声が無くても、 満天に広がる星だけでルルは嬉しそうだった。 まずは、今夜眠れる場所を探さなければいけない。 街の外に人は住んでおらず、いるとしたらエルフだけ。 しかしエルフの家は隠れ家のようなもので、そう簡単に見つからない。 その代わり、熊が冬眠に使うほら穴がたくさん見つかる。 熊狩りは任務で経験済みなので、どれが使われているものなのか すぐにわかる。 使われなくなったものは、ほら穴がある大樹に印が残されている。 衛兵に見つからないよう、街からできるだけ遠い場所がいい。 ランプの灯りだけを頼りに、銀世界を歩く。 「ルル、寒くないか?」 首を横に振るが鼻先が赤くなっている。 エルフの特性なのか、ルルは体温がとても低い。 これ以上冷えないよう、僕のマフラーを巻いてやる。 「もうすぐ着くから、頑張って」 つい1週間前に任務で狩った熊のほら穴が、この近くにあるはずだ。 森林の奥へ進み、一際大きい木を見つける。 予想通り、幹に赤いペンキで印がつけてある。 念のため、熊がいないか確かめる。 ほら穴は冷えていて、外と温度が変わっていない。 「今日はここで眠ろうか。」 荷物を中に入れて、ルルにランプを預ける。 ほら穴は狭くて窮屈だが、くっついて眠る方が暖まるので、 むしろ丁度良い。 「ルル、少し待ってて。すぐ帰ってくる」 さすがに毛布3枚では寒いので、火起こしに使えそうな枝を探しに行く。
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